カクシン 代表取締役社長 CEO田尻望氏(撮影:内藤洋司)カクシン 代表取締役社長 CEO田尻望氏(撮影:内藤洋司)

 近年、大手のみならず中小企業にも賃上げの動きが見られる一方、業績改善を伴わない人材確保のための「防衛的賃上げ」に踏み切る企業も少なくない。高収益と高賃金を両立するためには、どのようなアプローチが必要なのか。経営コンサルティング、組織コンサルティングングを手掛けるカクシン代表取締役社長CEOの田尻望氏は、営業利益率50%超・平均年収が2000万円を超えるキーエンスの報酬戦略に解決のヒントがあると語る。2023年12月に書籍『高賃金化 会社の収益を最大化し、社員の給与をどう上げるか?』(クロスメディア・パブリッシング)を出版した同氏に、高収益と高給与を同時に実現するための経営手法や報酬制度について話を聞いた。(前編/全2回)

■【前編】高賃金企業はここが違う 「人手が足りない」と嘆く経営者に必要な発想の転換(今回)
■【後編】平均年収400万円ダウンから奮起したキーエンス社員、3年でV字回復できた勝因

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

「高収益を目指せば高賃金にできる」という単純な話ではない

――著書『高賃金化』では、賃金を上げない日本企業が抱える問題点を指摘しています。高収益と高賃金を実現するために、経営者はどのような考えを持つ必要があるでしょうか。

田尻 望/カクシン 代表取締役社長 CEO

京都府京都市生まれ。2008年に大阪大学基礎工学部情報科学科卒業後、株式会社キーエンスにてコンサルティングエンジニアとして、技術支援、重要顧客を担当。大手システム会社の業務システム構築支援をはじめ、年30社に及ぶシステム制作サポートを手掛けた。その後、企業向け研修会社の立ち上げに参画し、独立。年商10億円~4000億円規模の経営戦略コンサルティングなどを行い、月1億円、年10億円超の利益改善企業を次々と輩出。企業が社会変化に適応し、中長期発展するための仕組みを提供している。

田尻望氏(以下敬称略) 賃金について議論をする際は、収益と賃金は相反する要素であることを前提とする必要があります。会計の仕組み上、利益を上げるためには人件費を下げた方が良いですし、人件費を増やせば利益は下がるからです。「高収益を目指せば高賃金になる」という単純な話ではないのです。

 では、このような構造を踏まえてどのように高賃金化を進めればいいのか。そこで求められるのは「最小の資本と人で最大の付加価値を上げる」という発想です。これは、私がかつて在籍していたキーエンスの経営理念でもあります。キーエンスは「営業利益率50%超」という高い利益率と、「平均年収2000万円超」という高賃金を両立することで知られています。

 ここで言う「付加価値」とは、お客さまのニーズを叶えたり、ニーズの裏側に潜む感動を提供したりすると生まれるものです。より多くの利益を出し、高収益を実現する上では「いかに多くの付加価値を生み出すか」が重要になります。

 しかし、多くの資本と人を投入して付加価値を生めば高賃金にできるかというと、そうではありません。高賃金化を図るためには、できるだけ優秀な人を雇い、できるだけ優秀な社員に育て、1人当たりの労働時間を減らすことが必要です。

――投入する資本と人を最小化するためには、社員にも理解を求めて納得感を持たせる必要がありそうです。

田尻 そのためにも、社員が働く上での考え方を「お金をもらって、仕事をする」ではなく、「仕事をして、お金をもらう」へと改めなければなりません。つまり、仕事をして生み出した付加価値にお金を払ってもらうということです。日本企業で働く多くの社員は「お金をもらって、仕事をする」という思考になっているのではないでしょうか。