本連載では、丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスの大躍進を支えた組織開発のプロ・鳶本真章氏が、「ミッション」によって社員の能力を最大限に引き出し、組織を変革し、成長に導く「ミッションドリブン」な組織づくりの秘訣を具体的に解説する。第2回は、「ミッション不在」やトップと現場との課題認識のズレがなぜ問題なのか、反対にミッションが浸透した会社では、なぜ組織の力が10倍、100倍になるのかを解き明かす。

(*)当連載は『ミッションドリブン・マネジメント~「なんのため?」から人を活かす~』(鳶本 真章著/技術評論社)から一部を抜粋・再編集したものです。

<連載ラインアップ>
第1回 丸亀製麺の大躍進を支えた組織開発のプロが指南、ミッション経営の神髄
■第2回 トリドールの躍進を支えたプロが解説、なぜ「ミッション」が機能しないのか?(本稿)
第3回 ファストリを世界一のアパレル企業に押し上げた「ミッション」を読み解く


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ミッションより現状の課題解決に意識が向きがちな経営者

 さっそく「ミッションを作りましょう」と言いたいところですが、その前に考えておきたいことがあります。

 そもそも、ミッションとは何なのか?
 本当に必要なのか?

 僕は経営者のミッションづくり(再定義)をお手伝いすることも多いですが、いきなりミッションを作り始めることはしません。まずその必要性をわかってもらうことが先です。というのも、経営者は常に会社のことを考えているので、あらためて定義して現場に落としていく必要性をあまり感じていないことが多いのです。

 たとえば、玩具メーカーの経営者Aさんはこう言います。

「日本中の子どもたちを笑顔にするというミッションは社員に伝えているし、そういう気持ちでやっていると思うよ。でも、競合が多い中、独自性のある企画がなかなか出てこなくてね。いい人を採用できるなら、もっとそこに費用を割いてもいいと思うんだが。それとも、もっと斬新なアイデアが出せるような場を作るべきか」

 ミッションはすでにあるんだし、それより現状の課題を解決したいと思ってしまうのです。しかし、さまざまな問題が「ミッション不在」から生まれています。いまの例で言えば、独自性のある企画が出てこないのも、いい人を採用できないのも、ミッション不在だからです。社長の思っているミッションは、現場にきちんと届いていません。そのままの状態でいくら採用に費用をつぎこんでも、事態は変わらないでしょう。

 ミッションを現場に浸透させていくには、仕組みも必要ですが、経営者の覚悟も必要です。本気で信じ抜く気概がなければ、浸透させられません。ですから、最初にミッションの必要性について、経営者が心から納得していることが重要なのです。

 ミッションの検討をすっとばしてしまう原因は「現場は気持ちをわかってくれているし、自分は現場のことをよくわかっている」という勘違いもあるようです。そう思いたい気持ちはわかるのですが……、十中八九、勘違いです。経営者が考えている課題と、現場で考えている課題にズレがあることは日常茶飯事です。現場をよく視察している経営者であっても、「そのときだけよく見せている」ことに気づいていません。