サステナビリティ経営の専門家である内ヶ﨑 茂氏(HRガバナンス・リーダーズ代表取締役CEO)が、「日本版サステナビリティ・ガバナンス」構築の必要性と考え方を解説する本連載。第5回となる本稿では、取締役会におけるジェンダー(性別)と人種・国籍のダイバーシティが、企業の価値創造にどのように貢献するのかを解説する。
(*)当連載は『サステナビリティ・ガバナンス改革』(内ヶ﨑 茂、川本 裕子、渋谷 高弘著/日本経済新聞出版)から一部(「第8章 日本版サステナビリティ・ガバナンスの構築」)を抜粋・再編集したものです。
<連載ラインアップ>※毎週金曜日に公開
■第1回 サステナビリティ経営をモニタリングする仕組みが求められている
■第2回 サステナビリティ委員会の設置が今の日本には必要
■第3回 モニタリング型のコーポレートガバナンスの構築
■第4回 ダイバーシティの重要性(1)従業員のダイバーシティ
■第5回 ダイバーシティの重要性(2)取締役の属性・年齢のダイバーシティ(本稿)
■第6回 ダイバーシティの重要性(3)取締役のスキル・専門性のダイバーシティ
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取締役の属性・年齢のダイバーシティ
社会の不確実性が高まる中、取締役会の多様性が重要性も増している。人口が右肩上がりに増加し、大量生産・大量消費に支えられていた高度成長期には品質のよいモノを効率的に生産し、経営は過去の成功体験を前提にものづくりを向上させていけばよかった。
しかし、時代の価値観がモノからコト、そしてココロへと変わる中で、今後は、社会の価値観の変化を予見することが難しい。グローバル企業グループの売上が国家予算を超えるなど、企業の地球・社会への影響が増大する中で、取締役会は地球環境やカントリーリスク、社会的格差など世界共通の課題につき、将来のメガトレンドをいくつかのシナリオを分析し、議論しないといけない。
そのためには、多様な価値観や視点からの論議が欠かせない。内部から昇格してきたモノカルチャーのチームで自社の進むべき方向性を議論するのはリスクが大きい。前述のコーポレートガバナンス・コード改訂でも取締役会の多様性に配慮するよう促しており、新型コロナウイルス禍で社会の不確実性への対応として、その風潮が一気に加速した。
ダイバーシティの中で最も議論されることが多いのは、ジェンダー(性
別)・ダイバーシティであろう。『日本企業のトップマネジメントチーム・取締役会改革の方向性〔上〕』(旬刊商事法務2021年2月5日号)にて、早稲田大学商学学術院教授の久保克行氏らと共に日本企業のTMTのジェンダー・ダイバーシティについて調査したところ、TOPIX100、JPX日経400、東証一部上場企業において各々3.7%、2.6%、2.5%となり、どの規模でも取締役会の女性比率と比べて約3~4%pt低い結果が出ている。
当該調査結果は、英米企業で同様の傾向にあり、取締役会における女性の登用が一定程度進んでいる一方、経営陣における女性の登用がなかなか進まないといった課題は、英米企業でも同様に生じている。経営陣候補のプール人財において、女性の確保が遅々として進んでいないことに起因していると思われる。
TMTは基本的に社内の人財のみで構成されているため、管理職の女性人財のプールが不足している企業がTMTに女性を登用することは難しいと推察される。2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂を契機に、中長期的な改善が期待される部分である。
ジェンダー・ダイバーシティの確保が、企業価値向上につながるという意見も多い。企業の経営層に占める女性割合の向上を目的に日本を含む世界中でキャンペーンを展開する30%Clubは、「経営層における男女の適切なバランスは、優れたリーダーシップとガバナンスを促進することだけに留まらず、取締役会全体のパフォーマンスを向上させ、最終的に企業と株主の双方の利益に貢献する」と指摘している。
また、Mckinsey&Company “Diversity wins:How inclusion matters”では、分析の結果、英米などの海外企業において性別多様性などを考慮している企業がそうでない企業より、利益指標(EBIT)が良好な結果を示す確率が高いと結論づけている。