サステナビリティ経営の専門家である内ヶ﨑 茂氏(HRガバナンス・リーダーズ代表取締役CEO)が、「日本版サステナビリティ・ガバナンス」構築の必要性と考え方を解説する本連載。第4回となる本稿では、サステナビリティ・ガバナンスの構築をするうえで、従業員のダイバーシティの確保は3つの重要な意義を有すると考える。
(*)当連載は『サステナビリティ・ガバナンス改革』(内ヶ﨑 茂、川本 裕子、渋谷 高弘著/日本経済新聞出版)から一部(「第8章 日本版サステナビリティ・ガバナンスの構築」)を抜粋・再編集したものです。
<連載ラインアップ>※毎週金曜日に公開
■第1回 サステナビリティ経営をモニタリングする仕組みが求められている
■第2回 サステナビリティ委員会の設置が今の日本には必要
■第3回 モニタリング型のコーポレートガバナンスの構築
■第4回 ダイバーシティの重要性(1)従業員のダイバーシティ(本稿)
■第5回 ダイバーシティの重要性(2)取締役の属性・年齢のダイバーシティ
■第6回 ダイバーシティの重要性(3)取締役のスキル・専門性のダイバーシティ
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ダイバーシティの重要性
日本企業は、女性管理職比率や女性取締役比率をはじめ欧米と比較してダイバーシティの観点で遅れをとっているといわれている。ただし、最近は多様な視点を取り入れたダイバーシティ経営を推進する動きが国内でも生じはじめている。
たとえば、2018年6月に経済産業省はダイバーシティ経営の実践に向けて「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を改訂した。行動ガイドラインでは、ダイバーシティについて、①ダイバーシティポリシーの策定など「経営戦略への組み込み」、②「推進体制の構築」、③ダイバーシティ経営の取組みを適切に監督する「ガバナンスの改革」、④「全社的な環境・ルールの整備」、⑤「管理職の行動・意識改革」、⑥「従業員の行動・意識改革」、⑦「労働市場・資本市場への情報開示と対話」という7つのアクションを求めている。
また、2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂でも「企業の中核人材の多様性の確保」が主要な改訂項目の一つとなり、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すこと、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである旨などが記されている。こうした国内動向を踏まえながら、本節では従業員や取締役のダイバーシティについて考察を行う。
① 従業員のダイバーシティ
サステナビリティ・ガバナンスを構築するうえで、従業員のダイバーシティの確保は3つの重要な意義を有すると考える。
第一に、マネージャー層のダイバーシティの確保は、将来の経営層のサクセッションプラン(後継者育成計画)を構築するうえで極めて重要である。不確実性の高まるニューノーマルな社会においては、経営陣のダイバーシティを強化することがリスクをチャンスに変えるビジネスモデルの構築に欠かせない。
米国企業でも日本同様に、業績の安定している平時にはCEOの内部登用が多いといわれており、CEO候補のプール人財においては多様なキャリアを有する幹部や管理職の従業員を多数抱えている。CEOの人財要件を明確にして、各CxOのミッション・ステートメントやジョブ・ディスクリプションを可視化することで、多様性のある人財開発への道程が明確になると考えている。