ローコードツールで業務アプリ開発を内製化

 プログラミングの専門知識がなくてもソフトウエアを開発できるのが、ローコードツールである。日清食品グループでは2020年春、まずIT部門でこうしたツールを導入。その後、総務や経理、人事などのバックオフィス、製品開発、生産、営業などの各部門でも順次、ツールを使える環境を整えていった。

 IT部門が各現場と連携して紙業務を洗い出していったところ、申請に必要な書類だけでも100種類以上あった。紙ベースで行っていたこれらの業務をローコードツールや電子署名ツールなどを使って、一気にデジタル化しようとしたのである。

「日清食品グループには、もともと現場発で業務を変えていく文化がありました。専門知識がなくても扱えるデジタルツールを提供すれば、それだけでペーパーレス/ハンコレス化も加速すると考えたのです」

 IT部門はツールの利用を強制するわけではなく、あくまでもサポートする立場。環境を整備し、運用のルールを決めた上で、分からないことがあればアドバイスする。最初のころは、使い方に関する質問が多かったが、使い方が分かってくると「こういうことがしたいので、ちょっと手伝ってほしい」という相談が増えていった。

「課題感が明確で、『こうしたい』という意思がある部門ほど活用はどんどん進みました。その影響によって、他の部門にも徐々に広がっていきました」

 こうして、紙や表計算ソフトで行われていた業務が、現場主導で開発した業務アプリによる処理へと徐々に置き換えられていった。例えば、中核事業会社である日清食品では従来、現場から稟議を上げて承認を得るまで平均20営業日かかっていたが、デジタル化によって平均4.4日に短縮できた。削減された紙の数は、グループ全体で10万枚以上にも及ぶ。

 業務アプリの開発を外部のITベンダーに頼っていたのでは時間がかかるし、スピーディに改良していくことは難しい。これを内製化することによって、アジャイルな開発・実装を実現することができた。

 その結果、2つの関係性が変わった。1つは、現場とIT部門の関係性。「ビジネスユーザーである現場が主体で、IT部門はそのサポート役という関係性がより明確になりました」

 もう1つは、IT部門と社外のITベンダーの関係性である。「ベンダーに開発を任せるのではなく、伴走者として会議に参加してもらって、アドバイスをもらう。つまり、私たちIT部門がシステム開発の主体となり、内製化できるような組織能力の構築を進めています」

 プログラミングの専門知識が必要な業務アプリの開発などは、ビジネスの現場に任せるのが難しい。そこはIT部門が現場のニーズを吸い上げながら内製化する。その際に必要に応じてアドバイスをもらえるよう、ITベンダーとの契約の在り方を見直した。

 外部のITベンダーから開発ノウハウや知見を提供してもらい、社内だけで企画・構築・運用できる体制を目指し、現場の課題を迅速にシステムへと反映させることで環境変化に耐性のあるシステムを提供していく方針である。