USスチール買収問題への慎重姿勢

 選挙の帰趨を大きく左右する、いわゆる激戦州(swing states)のひとつであるペンシルベニア州ピッツバーグにある、全米鉄鋼労働組合(USW)の本部で行われたこの演説でバイデン氏は、トランプ氏よりも「米国第一」であることを示すべく、保護主義色の強い措置を打ち出した。

 演説ではまず、日本製鉄によるUSスチール買収問題に関する慎重な姿勢を再確認した。

 2023年9月のレイバー・デイに同州フィラデルフィアにおいて、バイデン氏は自身が「米国史上最も労働組合寄りの大統領」であると自負したが、今回もこの言葉を繰り返した。

 そして、米国にとっての鉄鋼産業の重要性を強調した上で、「USスチールは1世紀以上にわたって米国の象徴的な鉄鋼会社」であり、「国内で所有され、運営される、完全に米国の企業であり続けるべきだ」と訴えた。これは、3月14日に発表した声明を再確認するものであった。

 USWが本件に反対し、トランプ氏が再選時には本件を「直ちに阻止する」との姿勢を明らかにしている中で、これは現職大統領として、同盟国・日本にも配慮した精一杯の発言と言えるだろう。

 バイデン氏による3月14日の声明発表後、同20日にUSWは大統領選でバイデン氏を支持することを表明した。

大統領選の影響をモロに受けている日本製鉄によるUSスチールの買収(写真:AP/アフロ)大統領選の影響をモロに受けている日本製鉄によるUSスチールの買収(写真:AP/アフロ)

 米選挙に関する世論調査を集計しているウェブサイト「270toWin」によれば、ペンシルベニア州を含む激戦7州ではこれまで、トランプ氏がバイデン氏に対してわずかながら優位を保っていたが、直近に行われた5機関による世論調査の結果を平均すると、ペンシルベニア州では2ポイント差という僅差ではあるものの、バイデン氏がトランプ氏に対して優位に立った(4月18日時点)。

 なお、今回の演説を受け、翌18日に日本製鉄とUSスチールは共同ステイトメントを発表した。そこでは、「USスチールは米国の会社であり、本社はピッツバーグで変わりません。輝かしい社名も変らず、原料採掘から製品製造まで米国で行われるメイド・イン・アメリカであり続けます」「雇用を守ります。工場閉鎖も行いません。また、生産や雇用の海外移転は行いません」といったことが表明されている。