独ベルリンの社会福祉事務所の前に並ぶ失業者(1930年)。1929年の米ウォール街での株価大暴落は、米国に依存していた世界経済に甚大な影響を与えた。特に影響の大きかったドイツは約3人に1人が失業した(写真:アフロ)

 日本国内での全面的な緊急事態宣言が解除された今、少しずつではあるが、冷静な目で各国の新型コロナウイルス感染拡大への対応策を振り返ることができるようになりつつある。

 新型コロナウイルス感染拡大の中、各国は危急の「自国ファースト」策を講じてきた。WTO(世界貿易機関)の調査によると、4月末時点で80カ国(以下、地域も含む)において新型コロナウイルスに関連する輸出禁止や制限措置が導入された。

 例えば、「フェイスマスク・ゴーグル:73カ国」「保護服:50カ国」「手袋:47カ国」「消毒液:28カ国」「薬:20カ国」「食品:17カ国」「医療機器(人工呼吸器を含む):10カ国」「新型コロナウイルステストキット:6カ国」という具合で、多くの国や地域が自国の人命と健康を第一とする「囲い込み」政策を発動したのだ。

 WHOによる発信を疑い、独自の政策によるコロナ封じ込めに成功した台湾では、1月からマスク輸出停止を表明し、マスク生産を全面的に政府管理下において市民が平等に購入できるシステムを構築した。これが初動として大いに有効だったとされている。

 米トランプ大統領が就任以来打ち出している「アメリカ・ファースト」の通商政策には各国からの批判の声が上がった。だが、世界的パンデミックの最中にあって、各国は当然にして「国民の生命・健康優先」での「自国ファースト」措置を講じるのに迷いはなかった。

 この「自国ファースト」政策、どこまでが「正当化」されるのだろうか。

第二次大戦の反省と「例外」条項

 1929年のウォール街での株価大暴落は、米国に依存していた世界経済に甚大な影響を与えた。特に影響の大きかったドイツは約3人に1人が失業。ドイツから第一世界大戦の賠償金を取り立てていたイギリスやフランスにも波及し、世界恐慌となった。

 経済がどんどん先細る中、主要国はせめて自国の輸出ルートだけは確保しようと自国の植民地や政策的に近い先進国とのグループを作った。そのグループ内では低い関税率で貿易し、外からの輸入には高い関税をかけて産業を保護したのだ。これが「自国ファースト」が暴走した姿、「ブロック経済」だ。

 結果、世界の貿易量はその後わずか3年でなんと3分の1まで縮小した。窮した国々が新たなブロック圏の構築を画策し、これが第二次世界大戦の惨禍とつながっていく。

 この反省から生まれたのがWTOやその前身であるGATT(関税及び貿易に関する一般協定)だ。

 米国や2001年に加わった中国を含む加盟国全てが合意したはずのWTO協定では、自国と他国の待遇を差別することは禁止している。「自国ファースト」の貿易制限措置は禁止されているのだ。

 では、コロナ対策としての医療用品の輸出制限措置はなぜまかりとおるのか。自由貿易の維持と拡大を目指しつつも、WTOには自国ファーストを認める「例外」ルールが存在するからだ。