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 物流と地球社会を持続可能にするために、今何が必要なのか。デジタル先端技術から経営戦略まで、世の誤解・曲解・珍解を物流ジャーナリスト・菊田一郎氏が妄想力で切りさばく連載企画。

 第5回からは2回にわたり、物流システムの新たなコンセプト「フィジカルインターネット」(PI)について考える。その②となる今回は、「モノの標準化」が既に広く根付く欧州の先行事例を紹介する。

<連載ラインアップ>
第1回 「2024年物流危機」は“2025年”に訪れる!~悪夢の年末・年度末
第2回 「炭素予算」が底をつく――全産業の物流部門が直視すべき地球の危機
第3回 2050年排出ゼロへ、〈再エネ革命/RE100〉が生む巨大な安全保障/地政学的価値
第4回 ZEV、モーダルシフト、PPAで実現 物流脱炭素化/GXの7つの具体策とは?
第5回 ビジネスを超える社会基盤へ、フィジカルインターネットへの一丁目一番地
■第6回 荷姿標準化の理想形、ドイツ最大スーパーが堅持するユニットロードシステム(本稿)


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大陸欧州の標準ユニットロードシステム

 前回のフィジカルインターネット実現に向けた荷姿(ユニットロード)標準化の解説に続き、今回はその理想形の1つと思われる、筆者がこれまでに取材した欧州の先行事例を紹介したい。

 私が「モノの標準化」のあるべき理想の姿として見上げているのは、大陸欧州の、標準パレット共有化を伴う標準ユニットロードシステムだ。

 私は物流専門誌の編集長時代の30年余ほぼ毎年、欧米中台への物流視察団を企画し取材してきた。中でもドイツを中心とする欧州視察は20次以上に及ぶ。だから30年以上前から、大陸欧州では以下のような仕組みがごく普通に運用されていることを繰り返し学んできた。

①800×1200mmに標準化されたユーロパレットが産業界で広く共通利用
 されている(大陸欧州での普及率は約9割という。英国標準は 
 1000×1200mmのため「大陸」とした)。

②そのパレットは全産業界に広がるEPAL (European Pallet Association) 
 のルールにのっとり、加盟各社の間で標準パレットが等枚交換方式*1
 運用されている。

③パレットに載せるボックスやクレート*2は正しくその1/4の
 400×600mmサイズでモジュール化され、パレットへの積載効率は普通
 に100%となる。エルゴノミクス(人間工学)に基づき、人が両手でち
 ょうど抱えられるように設計されたこのサイズが、欧州のユニットロー
 ド寸法系列の原点になったものと言われる。その整数倍・分割でパレッ
 ト、ハーフパレット等の寸法が決定されている。

④倉庫内のラックやコンベヤなどマテハン機器、産業車両等は全てこれら
 のモジュール寸法のユニットロードの保管・搬送用に標準化され、高品
 質かつ廉価に供給されている。

⑤そもそも積載する商品自体がこれらのユニットロード寸法を前提に、可
 能な限り、最適な積載効率になるサイズで設計(DFL:Design for 
 Logistics)することが優先されている。

⑥トラックからの積み下ろし作業は荷役分離で、ドライバーでなく倉庫作
 業者が、パレット貨物をフォークリフトで扱うのが「当たり前」であ
 る。筆者が知る限り異形品以外、欧州で裸の貨物を手積み・手下ろしす
 る現場を見たことは一度もない。その根底にあるのは、「安全」と「人
 権」を守ることへの高い意識であろう。これをわが足元の物流現場の現 
 実と照合した時、「物流2024年問題」の真因が見えてこないだろうか。

⑦スワップボディコンテナ*3が広く普及し、ドライバーは到着したら同コ
 ンテナを切り離すだけで即帰庫できる/あるいはヘッドとシャ
 ーシだけで到着し、既に倉庫作業者が満杯にしたコンテナを接合するだ
 けで、即発車できる。いずれも待機時間は実質ゼロである。

*1 パレタイズド商品を納品したら、同数の空パレットを交換で受け取って帰る方式。レンタルパレットであれば一定数貯めてから別便で空パレットを回収する必要があるが、その手間が不要と極めて効率的。

*2 製品輸送時に使用するプラスチック製の容器

*3 スワップボディコンテナは車両と脱着できる貨物コンテナだが、通常の海上コンテナと異なり、シャーシから降ろした後は折り畳んだ足を立てて自立するので、コンテナだけの状態で倉庫作業者による貨物の積み下ろし作業ができる。同コンテナを自力でシャーシに脱着可能な機構を持たせたのがスワップボディコンテナ車両。けん引免許等が不要ながらトレーラー同様の脱着運用が可能である。