食品などを中心に値上げが続くが、付加価値を上げて安易に値下げしないという発想が必要だと山田教授は語る(写真:共同通信社)

 2023年の春闘では平均で3.58%(連合<日本労働組合総連合会>の最終集計)の賃上げが実現し、30年ぶりの高水準になった。しかし、定期昇給を除けば2%弱と水準はまだ低い。物価上昇の影響を除いた実質賃金はむしろ下がっている。

 継続的な賃上げの実現と、それが消費に回り成長率を押し上げていくために必要な条件とは何か、その条件を達成するためにどのような政策が必要なのか。マクロ経済分析や経済政策、労働経済を専門とする法政大学大学院の山田久教授に聞いた。(聞き手:大崎 明子、ジャーナリスト)

望ましい賃上げはベア3%、平均賃金で4%台後半

──2024年の春闘に向けて、連合は5%以上、傘下のUAゼンセンが6%以上という賃上げ目標を掲げています。目標設定についてどのように評価していますか。

山田久氏(以下、山田):持続的に名目で賃金が上がっていくということだけではなく、物価変動を除いた実質でも上昇させなければ、経済にはプラスの効果が出ません。

 日本の中長期的な姿を物価上昇率2%、生産性上昇率も1%程度は実現したいとすると、賃上げは定期昇給分を除いたベースアップで3%というのが望ましい水準になります。2023年は定昇分(1.6~1.7%程度)を除くと2%程度なので、まだ低い。

 定昇込みの上昇率で見れば4%台後半が必要で、強めの要求を出すのは労働組合としては当然です。また、大手企業は応じられると思うのですが、中小企業に広がっていくかが焦点になります。

 賃上げを持続的なものにするには、よく言われることですが、物価と賃金の「ノルム」(規範)が変わらないといけない。どういうことかというと、物価体系全体として、適切な価格転嫁が行われる必要があるということです。

 マクロでの動きは、企業物価の消費者物価への転嫁率からざっくり計算できますが、転嫁率がようやく上がってきたとはいえ、足元で30%を少し上回るぐらいです。欧米だと60~70%の転嫁率です。日本ではミクロで見ると、全くできていない中小企業もあります。

 日本経済が全体としてうまく回っていたのは1980年代の前半ですが、この時の価格転嫁率は50%程度ありました。

──ジャパン・アズ・ナンバーワンのころですね。

山田:まさにそうです。このころのバランスは非常に良かった。だから、これから価格転嫁率が5~6割で推移し、賃上げ率が4%台後半になれば、良いバランスと言えます。そう考えるとまだまだ緒についたばかりです。