あるFacebookページに社長が社員一人一人に決算賞与を手渡す動画が投稿された。金額は「研修社員10万円」「一般社員50万円」「店長以上100万円」。決算賞与は全て現金で、金色の封筒に入れられていた。封筒が渡されるたびに社員(平均年齢は33.5歳)から大きな歓声が沸き上がったが、それはまるで「全員で優勝を勝ち取った」ような雰囲気であった。この動画を公開したのはKUURAKU GROUP(本社/千葉県船橋市)の福原裕一社長。同社は1999年3月に設立され、現在、飲食事業として焼き鳥居酒屋を国内15店舗(うち5店舗はのれん分け)、海外19店舗で展開。学習塾3教室、学童保育3施設の運営も行っている。

シリーズ「今、このフードサービス 企業がおもしろい!」
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平均年収600万円、従業員の好待遇を実現させたグローバル居酒屋企業の秘訣(本稿)


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1年間に世界85カ国から7万人のインバウンド客が来店

 筆者はこの企業を2007年の春からウォッチしており、機会あるたびに取材をしてきた。同社は国内に加え、海外でも焼き鳥居酒屋を展開するが、海外店舗で外国籍人材を雇用し社内にダイバーシティ(多様性)の環境を培い、それを国内店舗でインバウンド客の獲得に生かす取り組みを熱心に行ってきた。また、近年では「Well-Being経営」(経営に関わる関係者全ての幸せを追求する経営)に取り組んでいる。

 筆者はコロナ下の同社の動向を福原氏のFacebookページで追いかけてきた。緊急事態宣言に先駆けて焼き鳥居酒屋を休業すると、日中にかき氷を販売したり、フルーツサンドをリヤカーにのせて販売したり、焼き鳥をキッチンカーで販売したりと「居酒屋の営業ができないなら、自分たちが今できることを精一杯行う」といった様子が連日のように投稿された。

2023年9月期の決算賞与を渡した後の集合写真。前列中央が代表の福原裕一氏

 昨年の10月ごろから、その投稿内容が変わってきた。同社がコロナ禍前に熱心に取り組んでいたインバウンド施策が奏功し、「過去最高売上を達成した焼き鳥居酒屋の店舗が続出」との投稿が多くみられるようになった。

 そして、2023年9月期(2022年度)の業績は売上高が11億6000万円(2020年度は10億円)。営業利益は2020年度の13.5倍。外食事業の既存店売上(9店舗で比較)は2019年度比で130.7%。

 中でも特筆に値するのがインバウンド売上の伸びだ。同社のコロナ前のインバウンド売上は2億円で売上全体の約20%だった。2022年10月の外国人新規入国制限の大幅緩和を受け、同社では2023年9月期のインバウンド売上を1億2000万円と予測していたが、2億6900万円とその2倍強となった。

 想定以上にインバウンド売上が伸びたことについて、代表の福原氏はこう語る。

「要因は2つあり、1つはコロナが落ち着くことでのリベンジ消費熱。もう一つは円安効果。当社の焼き鳥居酒屋『福みみ』は平均客単価が3800円ですが、これを米ドルに換算すると、2019年が約34.5ドル(1ドル110円弱)、2023年が約25.3ドル(1ドル150円弱)。つまり、ドルで計算すると、2023年は2019年よりも26.7%安くなる」

 その結果、2023年9月期に同社の焼き鳥居酒屋を訪れた外国人は世界85カ国から7万818人と増えた。

2023年9月の「福みみ銀座5丁目店」の様子。同店のお客のうち80%は外国籍。25坪で10月度には1700万円を売り上げるペースとなった