日本の伝統である温泉旅館もジェンダーレス化の波とは無縁でいられない日本の伝統である温泉旅館もジェンダーレス化の波とは無縁でいられない(写真:ImagingL/Shutterstock.com

秋の旅行シーズン。10月には中国の大型連休の直後に日本の3連休が続き、観光地によってはコロナ前を上回る水準の人出を記録したようだ。コロナ禍の移動制限に苦しんだ宿泊業界としてはリベンジの好機だが、関東地方の温泉ホテル経営者は浮かない顔だ。人手不足に加えて、頭を悩ませているのがSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みだという。特に、トイレや更衣室の問題で注目された「ジェンダーレス化」は一筋縄ではいかないようだ。

(森田 聡子:フリーライター・編集者)

東急歌舞伎町タワーの炎上は一部でしかない

 今年4月にオープンした東京・新宿区の東急歌舞伎町タワーは、「オフィスフロアを設けない、宿泊とエンターテインメントに特化した新しいスタイルの超高層ビル」として話題を呼んだ。

 時代を先取りしたビジネスモデルの体現の一環として、飲食店が集まる2階のフロアには性別に関係なく利用できる「ジェンダーレストイレ」が導入されたが、わずか4カ月で従来型の男女別トイレに変更されている。

 個室の前までは誰でも自由に立ち入ることができ、なおかつ手洗い場も男女共用だったため、オープン直後から「男性に待ち伏せされたら怖い」「女性の化粧室や授乳室は絶対必要だというごく当たり前のことが全然分かっていない」などとSNSで大炎上したのだ。

ジェンダーレストイレが物議を醸した東急歌舞伎町タワージェンダーレストイレが物議を醸した東急歌舞伎町タワー(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)

 すぐに運営側が警備員を巡回させるといった対策を発表したが、「パパ活の場になっていた」などという不穏な報道も飛び出すに至り、改修を余儀なくされた格好だ。

 ジェンダーレストイレは、北欧や米国の都市部などで急速に普及が進んでいるが、日本で市民権を得るにはしばらく時間がかかりそうだ。

 LGBTQフレンドリーを推進する埼玉県が今年「可能な限り性別にかかわらず利用できるトイレや更衣室を増やす」方針を決定すると県の内外からブーイングの声が相次ぎ、大野元裕知事が「現在ある女性用トイレを廃止したり減らしたりすることが前提ではない」と火消しに走った。

 そうした中で「ジェンダーレス化による炎上や顧客離れのリスクを内包するのはトイレだけではない」と語調を強めるのは、関東地方の温泉ホテルの経営者だ。