「働かないおじさん」問題の責任はどこにあるのか

(太田 肇:同志社大学政策学部教授)

「働かないおじさん」という、少々毒気を含んだ言葉が巷に流布している。若手社員からすると中高年社員が高い給料をもらいながら、それに見合った仕事をしていないのは不公平に映るし、彼らが上にいるために自分たちの活躍の場が奪われているのは我慢できないのだろう。しかし、中高年の側にも彼らなりの言い分があるはずだ。

 そもそも「働かないおじさん」問題の責任はいったいどこにあるのか、どうすれば解決できるのかを考えてみよう。

データが物語る中高年の「消極的な姿勢」

 いつまでも浮上しない日本の国際競争力と企業の労働生産性、乏しいイノベーション。背景には日本人労働者の意欲低下、とりわけ前向きにチャレンジする姿勢の欠如があるのではないか──。それを確かめるため今年の2月、全国の働く人々を対象に意識調査を行った。

 その結果、「失敗のリスクを冒してまでチャレンジしないほうが得」だと考えている人がほぼ3分の2を占めるなど、何事にも消極的な日本人の姿が浮き彫りになった(拙著『何もしないほうが得な日本』PHP新書、2022年11月刊)。

 なかでも際立つのが、中高年の消極的な姿勢である。たとえば「自ら転職や独立をしないほうが得だと思いますか」という質問に、「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と答えた人は、30代が40%であるのに対し、40代は54%、50代は57%と過半数を占めている。

 また「ムダな仕事だとわかっていても続けることがありますか」という質問に「ある」と答えた人は、30代では56%だか、40代では69%、50代は75%と年齢が上がるほど高くなる。事なかれ主義で、定年まで無難に過ごそうという中高年の姿勢が表れている。

 わが国には判例によって形成された「解雇権乱用の法理」がある。社員の能力や成果に少々問題があっても、会社が一方的に解雇することは難しい。その厚い雇用保障にあぐらをかいて積極的に働こうとしない中高年が多い、という見方をする人が多い。

 しかし、雇用保障だけが原因ではない。実際にアメリカはともかく、ヨーロッパなどでも雇用保障は厚いが「働かないおじさん」問題などは聞いたことがないといわれる。