重イオンビームに陸上養殖、「ワカメの革新」進む

日本の縁深き海藻、その歴史と現在(後篇)

2019.02.15(Fri) 漆原 次郎
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岩手県水産研究センターに置かれた浮遊回転式陸上養殖装置。容量は2000L。水槽の中央にはカラーコーンが使われている。(画像提供:理化学研究所)

 日本における代表的な海産物のひとつ、「ワカメ」に光を当てている。前篇では、いかに日本人がワカメを価値あるものとしてきたかを追った。和布刈(めかり)神事や、磯の口開けといったしきたりなどから、その価値がうかがえる。現代には養殖技術も築かれ、ワカメと私たちの距離は近づいた。

 後篇では、その先端にあるワカメ養殖をめぐる技術革新に迫る。「重イオンビーム」によるワカメ育種や、「浮遊回転式養殖装置」による完全陸上養殖といった技術が開発されているのだ。ワカメから得られる価値や恩恵は、先端技術によりさらに増えようとしている。研究をリードする理化学研究所の阿部知子氏に話を聞いた。

重イオンという“粒”を当てて変異を誘発

 生きものの遺伝的性質を用いて、利用価値の高い作物を作り出すことを「育種」という。育種の方法のひとつに「遺伝子の変異を誘発する」という手だてがある。ここで活用されている技術のひとつが「重イオンビーム照射」だ。

「重イオン」と呼ばれる、ヘリウムよりも重い元素のイオンを、加速器という装置で十分に加速し、ビームにして対象の植物に当てる。するとDNA内の遺伝子が変異する。その後、ビーム照射を経た植物の中から、目的にかなうものを選抜するのだ。

 照射という方法では「X線照射」や「ガンマ線照射」も古くからあった。それらと比べたときの重イオンビーム照射の特徴を、阿部知子氏はこう説明する。

「X線照射などは“光”を当ててDNAに影響を与えるイメージ。これに対して、重イオンビーム照射は“粒”を当てるイメージです。エネルギーがより大きくなり、直接的にDNAを切ることができます」

阿部知子(あべ・ともこ)氏(中)。理化学研究所仁科加速器科学研究センター副センター長、イオン育種研究開発室生物照射チーム室長・チームリーダー。農学博士。1989年、東北大学大学院農学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所薬剤作用研究室基礎科学特別研究員を経て、1991年、同研究員。2018年より現職。同チーム協力研究員の市田裕之氏(左)、テクニカルスタッフの山田美恵子氏(右)とともに。
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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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