「ミーティングの時、私はストライクゾーンを六分割したシートに、相手の苦手なコースなどを書き込んでいたんですが、チームメートやコーチには驚かれましたね。当時はまだタブレットはなかったけれど、それでもすべてのデータをチームがプリントアウトしてくれていた。それなのにいちいちメモを取る私は、彼らからしたら、『なんてアナログなんだ』と思えたのでしょう。笑われたことを憶えています(笑)。でも日本時代からのクセで、私にはそうやった方がデータをインプットしやすかったんです」

 一方で、すでにこの時期からメジャーの一流選手たちはデータを積極的に活用していたという。

「ロサンゼルス・ドジャース時代のチームメートで、“プロフェッサー”と呼ばれていたグレッグ・マダックス(注:現役生活23年で355勝を挙げた大投手。精密機械とも呼ばれた)は、相手チームの映像やデータをチェックするのにものすごい時間を費やしていました。グラウンドで練習していなければ、データルームのパソコンの前に座っている。そんな印象でした。ただ、そういうデータのインプット時代を経て、現在はアウトプットが重要な時代に差し掛かっていると思います」

36歳でメジャー挑戦。1年めからストッパーとして活躍。37歳で当時日本人最速の159kmを投げるなどメジャー7年で21勝84セーブ。現在はパドレス球団本部・環太平洋顧問。

あぶり出されるようになった「陰の実力者」

 冒頭でも述べたように現在、データ野球は急激なスピードで進化を遂げ続けている。

 たとえば、野球界では長らく「打率が高い(=ヒットを打つ)」ことが良い打者の条件だと考えられてきた。そこに登場したのが「出塁率が高い(=アウトにならない)」打者が良いという概念。基本的に高打率の打者は、出塁率も高く好評価・・・つまり年俸も高い。ただ、中には出塁率が高いのに打率が低いことで評価されてない打者もいる。そういう選手を低予算で集めて、戦えるチームを作る・・・。

 これはセイバーメトリクスという指標を使ったチーム作りで、2000年代に入り、メジャーリーグ屈指の「貧乏球団」とされていたオークランド・アスレチックスが取り入れたことで話題になった。アスレチックスは、実に年俸総額が3倍以上もあるNYヤンキースらを圧倒し、2年連続(2002、2003年)で地区優勝を果たした。

 これが映画にもなった有名な「マネーボール」の基礎となる考え方だ。

「選手の実力は、主に打者なら打率、打点、本塁打、投手なら勝利数や防御率で評価されますが、もっと別の角度から成績を分析して、本当にチームに貢献している選手を見つけようという考え方が広まりました。そのための新しい指標がセイバ―メトリクスです」

 代表的なセイバ―メトリクスをいくつか紹介してみよう。OPSは、出塁率と長打率を足した数値で、打者を評価するための指標。UZRはリーグの同ポジションの平均的な選手を基準に、どれだけ失点を防いだかという守備の指標。WHIPは1イニング当たり何人の出塁を許したかで表す投手の能力数値。

 これらのデータを駆使することによって、これまであまり評価されてこなかった“陰の実力者”があぶり出されることになった。つまり、データによって見えなかったものが見えるようになったのだ。

「以降もデータはさらに進化し、PITCHf/xやFIELDf/xという高性能カメラでの測定システムや、トラックマンという弾道測定システムが導入され、選手のほとんどすべてのプレーが数値化されるようになりました。現在は、その測定されたビッグデータをいかに解析するか、アウトプットしていくかが重要になってきているんです」