サウジアラビアの政治体制をさらに動揺させる原油安

ムハマンド皇太子への生前譲位は成功するのか?

2018.09.14(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54094
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 9月1日付ニューヨークタイムズは「次の金融危機が地下に潜んでいる」と、シェール企業が金融市場全体に与える潜在的リスクを報じたが、筆者も同感である。

 市岡氏は「米国の金融市場は利上げ局面にもかかわらず信用スプレッド(10年物の米国債とジャンク債の利回り差)が縮小したままであることが米国の高株価を演出している」と指摘する。シェール企業が発行するジャンク債のデフォルトが多発すれば、ジャンク債市場の活況を利用して積極的に自社株買いを行い自社の株価の高値を維持するという「錬金術」が不可能となり、米国の株式市場が急落するリスクが生じる。

皇太子の苦境を憂慮するサウジ国王

 バブル崩壊による原油安は産油国の政治体制を大きく動揺させるが、サウジアラビア情勢からますます目が離せなくなっている。

 前回のコラム(「サウジアラビアはなぜアラムコのIPOを中止したのか」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53923)でサウジアラムコのIPO中止の背景を説明したが、IPOを主導していた勢力に対する不信感が高まる一方のようだ。だが、実質的な最高権力者であるムハンマド皇太子を批判することは難しい。「とかげの尻尾切り」は世の常であり、ムハンマド皇太子の代わりにファリハ・エネルギー産業鉱物資源相(アラムコ会長)が責任を取って辞任するかもしれない。ファリハ氏は現在実施されている主要産油国による協調減産体制を構築した立役者であることから、その失脚により世界の原油市場は再び無法状態に逆戻りしてしまうかもしれない。

 サウジアラムコのIPOによる巨額な財源(1000億ドル)を失ったサウジアラビア経済を回復させる手立ては原油価格の上昇と原油生産の拡大しかない。だが、このことは「石油依存経済」への逆戻りを意味する。

 その虎の子である石油産業に対するイエメンの反政府武装組織フーシ派の脅威は高まるばかりである。フーシ派は9月に入り、連日サウジアラビア南部のジザン州のサウジアラムコの製油所を攻撃している。だがフーシ派のミサイル攻撃の原因を作ったのは、ムハンマド皇太子が国防相に着任した直後の2015年3月に開始したイエメンへの軍事介入である。9月に予定されていたイエメンの和平協議は開催されず、世界最大規模の人道危機は深刻化の一途を辿っている。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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