筆者は2018年5月17日の拙稿「物価上昇率2%の『達成時期削除』した黒田・日銀『敗北宣言』の読み解き方」の中で、「CPIの2%上昇」の達成時期を削除した理由の1つに、「新たに就任した若田部昌澄副総裁の金融政策決定会合での立場」があると指摘した。

 バリバリのリフレ派で追加金融緩和を主張していた若田部副総裁が、日銀の金融政策決定会合で追加金融緩和を主張せず、「金融政策の現状維持」に賛成すればその主張に齟齬を来すことになるため、CPIプラス2%達成の錦の御旗は掲げたまま、達成時期だけを削除したのだと解説した。

 その若田部副総裁は『日本経済新聞』(6月28日付)のインタビューで、「物価がトレンドとして下がっていく感じで、デフレに戻る危機があるなら政策調整をやらざるを得ない。必要であればちゅうちょなく追加緩和すべきだ。金利を操作するか、資産購入の対象を増やすか、資産の購入額を増やすか。この3つの戦略でのぞめばよい」と発言している。

 これこそが、日銀が金融政策の修正に乗り出した理由なのだ。すでに、CPIプラス2%達成という目標は断念しているが、日銀には“景気の番人”としての自負がある。CPIこそ上昇しないが、雇用、賃金などは好調で、景気は安定した状態にあると言える。

 では、若田部副総裁が危惧し、追加緩和を実施すべき「物価がトレンドとして下がっていく感じ」とは何を想定しているのか。それは、来年10月1日からの消費税率10%への引き上げだろう。2014年4月の消費税率8%への引き上げでは、実質経済成長率が2013年度の2.6%プラスから2014年度には0.3%のマイナスに落ち込んだ。さらに付け加えるならば、2020年の東京オリンピック終了後の景気の落ち込みも視野に入れているのではないか。こうした景気の悪化が懸念される事態に対して、その準備としての金融緩和策の修正だと見るのが妥当だろう。

 黒田総裁はこれまでに幾度も、「金融緩和策はまだまだある」と発言している。しかし、現在行っている金融政策が限界を迎え、その副作用が懸念される中、金融政策の修正を行い、懸念される景気悪化に立ち向かうための“金融緩和策の伸び代”を作ることが、最大の狙いだろう。

鷲尾香一
金融ジャーナリスト。金融業界紙、通信社などを経てフリーに。

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