しかし、このネットオーディオビジュアル初期に、日本人に衝撃を与えたのは2004年10月に発生した出来事でした。

 中東紛争地域にボランティアとして入っていた日本人青年(香田証生さん)が「イラクの聖戦アルカイダ」を名乗る組織によって拉致され、身代金要求などののちに星条旗の上で殺害され、その模様を写したビデオ・クリップが全世界に不特定多数公開されます。

 少し前から米国人ジャーナリストを狙う、こうした形態の凶悪犯罪が何件か発生していました。

 そこで私たちの研究室では、実際に公開されたビデオを見てしまったとき、視聴者の脳でどのような反応が起きるか、例えば恐怖のため虚血が発生し、思考水準が低下するリスクなどを確認、社会発信しました。

 私の「さよなら、サイレント・ネイビー」(2005-06) などでこの当時、これをご覧になった方もいるかと思います。

 同様の内容を全く違う形で、本連載の原点である日経ビジネスオンラインで「常識の源流探訪 セックスの快感は脳を麻痺させる」(2008年1月15日公開)は長らく最長不倒アクセスビュー記録を保持していたかと思います。

 あれからすでに10年が経過しようとしているわけですが、こうした現象全体を冷静に見つめ直すと、よりシンプルなコアが見えてきます。

 20世紀まで、音声動画コンテンツは「放射状」の配信状態にありました。「ブロードキャスト」と言われます。

 放送局など限られた情報発信源があり、各国政府は放送免許その他の規制を設けて、プロフェッショナルが不特定多数への露出が許される内容を厳選して配信していた。

 これに対して、ブロードバンド・インターネットは、放送法も電波法も関係ない「素人」が、政府の監督その他無関係に、どんな内容でも発信できる「マルチキャスト」の無法地帯になってしまったということです。

 1995年、インターネット初期、リベラルの人々は「これからはインターネット民主主義だ」と息巻いた。ところが、10年経って現実には、民主主義の原則はおろか、刑事司法も無関係の殺人動画をテロリストが流布できる、荒んだ状況になってしまいました。