それを食べてみると、何とところてんの海藻臭さが抜けていた。これはいいと作られるようになったと言われる。そして漢語で「冬の空」を意味する「寒天」と名づけられた。

 寒い冬に凍らせ、そして天日干しにするという自然頼みの製法を工業化したのが伊那食品工業だ。品質が格段に向上、冬の間だけだった製造期間も通年になった。

 寒天は非常にシンプルな食品と言っていい。しかし、だからこそ実は研究開発のし甲斐がある。

様々な食品の原料として使われる「寒天」

伊那食品工業の製品。寒天は様々な食品に使われている。

 品質管理を徹底して大量生産し業務用の寒天として販売する一方、様々な食品に混ぜて新しい食感や風味を引き出すことができる。

 各種スープやゼリー、プリンの素材として、サラダや雑炊用の食材として、チーズケーキや蜂蜜などに混ぜ込み型崩れが起きないようにするために・・・。

 シンプルなだけに知恵を絞れば絞るほど新しいアイデアが浮かんでくる食品と言っていい。塚越寛会長は「伊那食品工業では社員の10%が研究開発に携わっている。わが社にとって研究開発は命綱」と言い切る。

 実際の研究開発に携わる社員が10%だとしても、そこには営業や製造なども関わらなければ新しい製品は生み出せないわけで、社員総出で知恵を絞る会社と呼んでもおかしくない。

 マニュアル通りに働くだけの仕事なら、どんなに複雑な仕事でもいつかはロボットに置き換えられてしまう可能性が高い。それ以上に、そういう作業はいくら続けても働く人に大きな成長をもたらさない。

 毎日、創意工夫しながら生活する人と、マニュアル通りの仕事を続けさせられる人。もしスタート時点で全く同じ能力だった人がいたとして、創意工夫する人とマニュアル通りに働く人では1年365日で大きな違いが出てくるはずだ。

 10年、20年経てばその差は決定的となる。