いまやあまり語られなくなった感があるが、日本の製造業がなぜ強くなったのか。恐らく最大のポイントは現場の考える力にある。

 トヨタ自動車などが導入したQC(品質改善)活動は、社員に時間外の仕事を強いると批判されたこともあったが、現場で働く人一人ひとりが常に考えながら仕事をする訓練を積んできたという意味は大きい。

 世界で約1000万台の自動車を売るトヨタ、米GM(ゼネラルモーターズ)、独フォルクスワーゲン各グループ。販売台数では世界の“ビッグスリー”として拮抗しているが、株式市場から見た評価は全く異なる。

トヨタの時価総額はGMの3倍以上

 企業価値を示す株式時価総額で、第1位は圧倒的にトヨタ。2位はダイムラー・ベンツでトヨタの半分以下、フォルクスワーゲンはやっと3位という状態だ。GMに至っては時価総額はトヨタの3分の1以下である。

 トヨタ生産方式を経営の真髄とするトヨタは、「改善後・改善前(改善が終わった時点ですでに改善を待つ状態になっているという意味のトヨタ用語)」という言葉が示すように現場は日々改善を行っている。

 トヨタの品質管理も生産性も基本はこの現場が知恵を出す仕組みに支えられていると言っても間違いではない。こうみると、トヨタと伊那食品工業は経営的に同類の企業と言えなくもない。

 類は友を呼ぶという。実はこの2社はここ数年、急速に接近しつつある。

 きっかけは塚越寛会長の経営理念である「年輪経営」を本で読んで知った豊田章男社長が「ぜひお会いしてお話を聞きたい」と連絡してきたことだという。2015年のことだ。

 しかし、伊那食品工業は社員第一のために未上場を続けている。かたや世界のトヨタは株主の利益を追求しなければならない。いくら経営理念が似ているからと言って、相容れない部分が多いのではないか。

 そう塚越寛会長に聞いてみた。会長は「私の見方では」と前置きして次のように語った。