日本初の「ゲノム編集」農作物、普及までの課題とは?

新しい育種技術(NBT)応用イネの試験栽培始まる

2017.07.28(Fri) 佐々 義子
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 ただし、途中の段階も考慮する「プロセスベース」で考え、消費者の商品選択のための表示を検討するという方向性もあるかもしれない。消費者庁は2016年度、原料原産地表示の見直しを行った。すでにパブリックコメント募集期間は終了しているが、食品メーカーには、小さな字で限られたスペースにどこまで記入することになるのかと、頭を抱えているところもあるという。

 消費者は「知りたいですか」と問われれば、詳細な表示に伴う明らかな値上げが無い限り「知りたい」と答えるだろう。ここに、ゲノム編集技術の使用の有無を示す表示も加わるのだろうか。しかも、アレルギー、消費期限、保存方法とは異なり、ゲノム編集技術の応用の有無は、安全性に関わらない表示である。そこにコストをかけることに、どれだけの意味があるのだろうか。

実用化に向け、丁寧な取り組みを

 日本では、冒頭の多収米の他に、受粉しなくても実がなる(単為結果)トマト(筑波大学)、光に過敏に反応して壁に激突死しない養殖マグロ(水産研究・教育機構 増養殖研究所)など、さまざまな研究開発が進められている。

 生命先端工学を専攻する大阪大学の村中俊哉教授は、ゲノム編集技術でソラニン(毒成分)をほとんど作らないジャガイモの研究・開発を行っている。このジャガイモが開発されたら、芽を取り除きながら調理する手間が省け、食中毒被害も減らせるだろう。

 村中教授は「ゲノム編集では、切りたい場所を見つけると繰り返し切断されるので、染色体の組数が多い作物(倍数体)にも極めて有効。しかし、イモ類特有の課題(種で増やさず、小芋で増やす)があり、肝心な芋ができても実用化のために増やすところが難しい」と言う。実用化には大量生産の手法(種芋の培養や栽培)など、従来の育種の課題もクリアしなくてはならず、ゲノム編集技術さえ確立したら終わり、ではないことが分かる。

市民講座でビニール紐を使ってゲノム編集技術を説明する村中俊哉教授。(写真提供:三菱ケミカルリサーチ)

 安全性審査、消費者の受容、そして表示はどう考えるのか。育種という我々の食を支えてきた幅広い技術を取り巻く課題に、丁寧に取り組んでいく必要がある。日本での、国が主導した遺伝子組換え技術の実用化の事例はというと、遺伝子組換えイチゴから作る犬の医薬品や、遺伝子組換えカイコが作り出す化粧品の保湿成分や診断薬などに限られている。

 ゲノム編集技術を応用した日本発の農林水産物が誕生したときは、誇れる自国の科学技術の成果として歓迎したいものだと思う。実用化まで、専門家も非専門家もともに注視していきたい。

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(さっさ・よしこ) NPO法人 くらしとバイオプラザ21 常務理事。博士(生物科学)。NPOでは、バイオテクノロジーと人々の暮らしを切り口にしたサイエンスコミュニケーションの実践と研究を行っている。ことに「バイオ」に特化したサイエンスカフェ「バイオカフェ」を企画、実施してきた。神奈川工科大学客員教授。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。


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