日本初の「ゲノム編集」農作物、普及までの課題とは?

新しい育種技術(NBT)応用イネの試験栽培始まる

2017.07.28(Fri) 佐々 義子
筆者プロフィール&コラム概要
農業分野でも、ゲノム編集技術の実用化に向けた研究が進められている。

 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県つくば市)は、5月から「新しい育種技術」(NBT:New plant Breeding Techniques)を使ったイネの試験栽培を始めた。NBTの中で、今、最も広く使われている「ゲノム編集」技術により、イネの持つ2つの遺伝子を働かなくさせることで5割の増収を目指すもの。日本で初めてのゲノム編集技術応用作物の野外栽培となる。

政府の意気込み、ゲノム編集こそは・・・

 2012年、欧州委員会共同研究センター未来技術研究所は「新しい育種技術」に関する報告書を発表し、そこで8種類の育種技術を紹介した。今、世界で最も注目され、広く用いられているゲノム編集技術もその中の1つである(JBpress記事「ゲノム編集は遺伝子組換えか」参照)。

 日本では、日本学術会議が植物にフォーカスして2014年に「植物における新育種技術(NPBT:New Plant Breeding Techniques)の現状と課題」を、また、農林水産省が2015年に「新たな育種技術研究会報告書」を発表した。後者では、日本における取り組み事例も紹介されている。

 内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術(アグリイノベーション創出)」(2014年度より開始。2017年度予算26.6億円)には、ゲノム編集技術を含む新しい育種技術を実用化しようとするコンソーシアムがある。遺伝子組換え技術では後れを取ったが、ゲノム編集では成果を上げようという意思が感じられる。

 研究開発と並行して、マーケティングや社会における新技術のソフトランディングを目指し、消費者を巻き込んだサイエンスコミュニケーションも研究テーマに含まれている。このことからも、実用化への期待の大きさがうかがわれる。

植物を育種で可食、安全、高収穫にしてきた人類

 大げさな言い方になるが、人類の歴史は“食料獲得の歴史”であり、我々は「いつでも食べられる」暮らしを追求し続けてきた。

 可食部が少なく、毒性もあり、脱粒性(種子を飛び散らせる性質)がある原種から、可食部が多く、安全で、脱粒性がなく収穫しやすい形状・性質に作物を変えてきたのが「育種」である。それは、人間に都合のよい性質を表現するように、遺伝子を変化させたことでもある。

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(さっさ・よしこ) NPO法人 くらしとバイオプラザ21 常務理事。博士(生物科学)。NPOでは、バイオテクノロジーと人々の暮らしを切り口にしたサイエンスコミュニケーションの実践と研究を行っている。ことに「バイオ」に特化したサイエンスカフェ「バイオカフェ」を企画、実施してきた。神奈川工科大学客員教授。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。


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