「ミツバチ問題」は農薬規制だけでは解決しない

養蜂とはちみつの過去・現在・未来(後篇)

2016.09.23(Fri) 漆原 次郎
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 だが、農水省の報告については、水稲以外の部分についての数値的言及をしていない点などに疑問を感じるという。また、農薬への暴露で死んだミツバチが日本のミツバチのどのくらいの比率になるのかといった影響の大きさについても未解明な部分は多い。

 農薬を規制した場合の影響も考えなければならない。

「農薬を使わない、あるいはごく限られた使い方をしている有機農業の栽培面積は、国内全農地の0.2%のみ。求められる生産性を農薬を使うことで確保して、じり貧の日本農業を底支えしたいという農業者も多数いると思います」

 消費者一人ひとりが、間接的ながらも農薬の利用者となっている意識を持った上で、農薬の規制について考えるべきと、中村氏は捉えている。

花を増やせ! 耕作放棄地でプロジェクト始まる

 農薬ばかりに目が行きがちだが、「全体を見たつもり」で思考停止してしまう危惧がある。中村氏は「ミツバチが直面している、農薬以上に重要な課題は多くあります」と言う。

「ミツバチが利用できる植物が減っているということが、全世界的な問題となっています」

 ミツバチが栄養源を得るための資源である花が減れば、繁殖はままならずミツバチは減ってしまう。自然の道理だ。日本でも、雑木林が豊富にあった時代には、養蜂業者でなくても、巣箱を置けばはちみつや交配用ミツバチを得ることができたという。「環境変化の中で、ミツバチを飼うことが難しくなってきています」。

 ミツバチがいつでも健全に繁殖し、群数や個体数を保てるような環境を整えることは、ミツバチ減少問題の基本的な解決につながる。「花があれば何とかなるというのは、世界各地に共通の認識です」。

 ミツバチに優しい環境をどのように用意するか。中村氏が着目しているのが、耕作放棄地の活用だ。

 2015年8月、山梨県甲府市で産学官連携による「耕作放棄地のお花畑化プロジェクト」を立ち上げた。玉川大学と、中村氏のかつての教え子が営む野村養蜂場、それに種苗企業の雪印種苗と農薬企業のシンジェンタが協議会を設立。甲府市農業委員会からも支援を得て、休耕中の田畑をミツバチの集まる花畑にして、ミツバチの蜜源を確保しようとしている。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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