「卵、食べてもいいんだ」と気づいた日本人

卵料理、その多様化の秘密を探る(前篇)

2016.03.11(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

「海苔巻卵」。卵を鍋で、焼目のつかないように丸焼きにして、水に漬けておいた水前寺海苔をよく水拭きして板の上に置いて広げ、寒さらし粉と葛粉を半々で合わせ海苔の上に薄くふって、卵の白身を少し塗り、焼き卵をのせて、巻きしめる。それをせいろに入れて蒸し、冷まして、お好みで切る。

「卵白粥」。新米を5合ほど水に浸す。水には昆布を半日か一夜か漬けておく。それで米をよく洗い、また水を2升入れて煎じ、水が1升2合に減ったら米を入れて、古酒も小盃1杯入れて、白粥になったら火を消して、卵を15個ほど割ってよく溶いて流しこむ。釜のふたをして、しばらくしてよそい出す。

 このほかに、卵、白砂糖、うどん粉を溶いて濾して、鍋に弱火を入れてつくる「家主貞良(かすてら)卵」や、赤寒天、黒砂糖、酒を使ってつくる「冷やし卵羊羹」なども見られる。海外での卵の食べ方もいろいろと取り入れているのだ。

『万宝料理秘密箱』の前書きには、紹介しているこれらの卵料理は「めずらしき料理」とあるので、多くは人びとにとって「珍」なるものではあったろう。

 だが、「百珍本」で扱われたほかの食材がわりと庶民に普及していたものだったことから、卵もそれなりに人びとに浸透していたともとれる。また、使う調理器具として「卵焼鍋」の記述があることから、すでに卵焼きはつくるのが当たり前になっていたのかもしれない。

「卵かけご飯」は日本特有

 卵の食の歴史について、もう1つ気になるのは「卵かけご飯」の来歴だ。この定番食はいつ始まったのか。

 そもそも卵を生で食べる文化は日本特有のものという。どうして日本人の間では、卵を生で食べる文化が起きたのか。この問いに対して、農学者の小泉武夫が興味深い考察をしている。

<それはヌラヌラ好きだからである。(略)その民族の食性は主食に大いに関係する。日本は炊いたご飯の粒が主食なので、粒とヌラヌラは非常に合う>

 納豆やとろろなどと同様、生卵の「ヌラヌラ」した食感がとりわけご飯によく合ったというわけだ。

いまでは卵の食べ方の定番となった卵かけご飯

 生卵を初めてご飯にかけて食べた人物ではないかといわれているのが、岡山県出身のジャーナリストで実業家にもなった岸田吟香(1833-1905)だ。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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