国際がん研究機関(IARC)が10月、ハムやソーセージなどの加工肉を「人に対し発がん性がある」、また牛肉や豚肉などの赤肉を「おそらく発がん性がある」と発表した。普段これらの肉に親しんできた人の中には、衝撃をもって受けとめた人もいるだろう。消費者が買い控えをしたり、食肉企業が沈静化を求めるコメントを発表したりと、波紋が広がっている。

 私たちはこの報告をどう受け止めればよいのか。食べてきた肉に今後どう接すればよいのか。そもそも、がん予防のためにどんな食生活をすればよいのか。

 これら疑問の数々を、がんの予防医学などを研究する専門家に前後篇で投げかけている。

 応じてくれているのは、国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部長の笹月静氏だ。同研究部は、今回の国際がん研究機関の発表を受け、日本人の赤肉や加工肉の摂取とがんのリスクの関係性を解説した「赤肉・加工肉のがんリスクについて」を発表。笹月氏はこの解説の作成に従事した。

 前篇では、今回の国際がん研究機関の報告内容を整理した。聞き慣れない表現が、少なからぬ人びとに誤解を招いているようだ。

 たとえば、加工肉で分類された「グループ1」は「最もリスクが高いグループ」ではない。正しくは「これまでの研究結果の一致度」により判定されるもので、グループ1に分類されたことは、「因果関係があるとみなすのに充分といえるほど疫学研究の結果が一致していた」ことを意味するという。

 今回の報告内容は、世界中の過去の研究から導き出されたもの。一方、日本人のみを対象に食事と発がんの関連性について調べた研究も行われている。笹月氏もそうした研究やその評価を行ってきた。

 そこで後篇では“日本人について言えること”を、聞いていくことにする。肉の摂取を心配することに、どのくらいの重要さがあるのだろうか。

加工肉:「最高群」リスクは「最低群」の1.17倍

――日本人を対象とした食生活と発がん性の関係について研究をしてきたと聞きます。

笹月静部長(以下、敬称略) はい。がん研究センターの研究を含む日本人の食事と発がん性についての研究結果を、私たちと各研究機関・大学の研究者が総合的に評価して、2014年に「Meat Consumption and Colorectal Cancer(肉の摂取と大腸がんリスク)」という論文にして発表しています。