台所から「やかん」が消える? 家庭にあった原風景

変わるキッチン(第18回)~沸かす

2015.11.27(Fri) 澁川 祐子
筆者プロフィール&コラム概要

 寒くなってくると、やかんに手が伸びる頻度が高くなる。お茶やコーヒーの用意をして、火にかけたやかんが音を立てるまで待つ。私はこのなにもしない隙間の時間がけっこう好きだ。

 とはいえ、ちょっとぼーっとしていると、すぐにやかんはシュンシュンとささやきはじめる。それでも放っておくと、やがて蓋がカタカタと鳴り出す。

 私が愛用しているやかんは、プロダクトデザイナーの柳宗理がデザインしたステンレスケトルだ。もう10年以上使い続けているので、油ハネやら汚れやらでだいぶ貫禄が出てきた。「早く沸くやかん」のキャッチコピーで広く知られているから、とくにデザインに興味がなくても見たことがあるという人は多いだろう。

「ケトル」と言いつつも、その姿は昔懐かしいやかんの形だ。ただ底がふつうよりも平べったく広い。だから、コンロの火をあますところなく受けて、お湯が早く沸く。そんなわけで空白時間は、いつもあっという間に終わりを迎え、そそくさと私はお茶を淹れる。

 やかんは「薬缶」と書く。読んで字のごとく、薬に関係するものだった。それがどうして湯を沸かす専用の道具になったのだろうか。今回はお茶を飲むために使われる「沸かす」道具に絞ってその変遷をたどってみよう。

筆者所有のステンレスケトル。底が平らなだけでなく、蒸気穴が蓋の側面についているのも特徴。取っ手が熱くならない。

湯沸かし専用の道具は茶の文化から

 きれいな水に豊富に恵まれている日本では、昔から湧水や井戸水などの生水が飲用に用いられてきた。そのため、煮炊き用を除いて湯を沸かす必要性にはそれほど迫られていなかった。

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1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


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