台所から「やかん」が消える? 家庭にあった原風景

変わるキッチン(第18回)~沸かす

2015.11.27(Fri) 澁川 祐子
筆者プロフィール&コラム概要

 翌年には、象印マホービンが「電気エアーポットCW型 押すだけ」、タイガー魔法瓶が「湯沸かしエアーポット わきたて PEA型」を発売し、市場に参入。新種の「沸かす」道具に一気に注目が集まった。

 最初のうちは、頭部の真ん中の丸いプレートを押してお湯を出す「エアーポンプ式」だったが、やがて電気のスイッチを押す「電気ポンプ式」に変わった。

 細かく温度設定できる機種が発売され、2000年にはデータ通信機を搭載し、高齢者のポットの使用状況を離れた家族に知らせる「見守りサービス」つきのポットまで誕生した。

 こうしてさまざまに開発されてきた電気ジャーポットだったが、最近では陰りが見えている。要因は、電気ケトルの台頭だ。

筆者所有のティファールの電気ケトル。引っ越し時などガスが使えないときには重宝する


 先にも述べたように、電気ケトル自体はすでにあった。だが、湯を沸かすだけならやかんで十分だと思われていた。にもかかわらず、2005年頃から徐々に人気を得るようになったのだ。

 火付け役は、2004年から日本でCMを展開したフランスのティファールだ。飲みたいときに飲みたい分だけすぐに沸かせて、見た目も洗練されている。しかも沸いたらカチッと自動的にスイッチが切れるから、ガスのように消し忘れを心配する必要もない。そうした理由から、電気ジャーポットほど大量の湯は要らないという単身者に広く受け入れられた。

 さらに2008年には、日本のメーカーが次々と市場に参入。昨今のエコ志向も影響して、いまや出荷台数は電気ジャーポットを上回っている。

 電気ジャーポットとやかんは、それなりに“棲み分け”ができていた。それほど湯を常に必要としない家では、従来通りやかんを使っていればよかった。だが、電気ケトルとなると、やかんで湯を沸かすのと基本的には変わらない。

 ここにきて初めて、やかんは「沸かす」道具の第一線から退かなければいけないかもしれない事態に陥っているのだ。それはなにを意味しているのだろうか。

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1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


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