台所から「やかん」が消える? 家庭にあった原風景

変わるキッチン(第18回)~沸かす

2015.11.27(Fri) 澁川 祐子
筆者プロフィール&コラム概要

 急須に熱湯を注ぐには、従来のように柄杓で汲んでいてはこぼれやすく、あまり都合がよくない。そこでさらに、あらかじめ注ぎ口のついた湯沸し道具が使われるようになった。

 その1つが先の薬鑵である。1603(慶長8)年に長崎で刊行されたポルトガル語の日本語辞書『日葡辞書』には、薬鑵について<今では湯を沸かす、ある種の深鍋の意味で通用している>と書かれており(『邦訳 日葡辞書』土井忠生ほか著、岩波書店、1980年)、中世末期にはすでに湯を沸かす道具として用いられていたことが分かる。

 先の『和漢三才図会』を見ると、薬鑵は「銅鑵」の名で載っており、当時は銅製であったことが分かる。<ものを煮ると大へん速く煮える>と評価すると同時に、銅特有の臭いにも触れ、その欠点も指摘している。

『和漢三才図会』にある「銅罐」の説明(左ページ)(所蔵:国立国会図書館)
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 そしてもう1つが鉄瓶である。鉄瓶は、鑵子に弦と注ぎ口をつけたものだ。初期の頃の鉄瓶には、釜と同じく鍔(つば)がついているものがあり、それは鑵子から進化したことを物語っている。

 だが、これら金属製の道具は庶民には手が届きにくかったに違いない。そこで陶製の道具、すなわち土瓶も盛んに作られるようになった。いま使われている土瓶は直火不可のものも多いが、当時は火鉢や囲炉裏の五徳の上に置かれ、直火にかけられるのが普通であった。

 こうして喫茶の習慣とともに湯を沸かす専用の道具もまた、その姿を変えていった。

新聞・雑誌が各種やかんの性能くらべ

 やかん、鉄瓶、土瓶。そのどれも現在に至るまで使われている。だが、もっともよく使われているのはやかんだろう。改めて言うまでもないかもしれないが、鉄瓶や土瓶が材質に依拠した名前なのに対し、やかんはそうではない。そのため、材質の特性にとらわれずに、時代のニーズに応えて姿を変えていくことができたのだ。

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1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


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