豚汁がまだ「おふくろの味」ではなかった時代

ルーツは鹿児島の郷土料理?

2014.03.14(Fri) 澁川 祐子
筆者プロフィール&コラム概要

 日本で生まれた数々の料理を取り上げてきたこの連載も、今回が最後である。おしまいに、子どもの頃も今も変わらず大好きな一品を取り上げたい。

 それは、豚汁だ。かつては母が作ってくれていたこの具だくさんの汁物。一人暮らしするようになってからも、冬になると必ず何度かは作ってきた。

 寒い日が数日続いて、冷蔵庫に豚の細切れ肉がいくらか残っていると、これはもう豚汁を作るしかないという気分になる。そこでいそいそと買い物に出かけ、サトイモやらゴボウやらを買い込んでくる。

 豚汁に入れる野菜は人によって違うだろうが、私が作るときに必須なのはネギとニンジン、サトイモ、ゴボウ。ダイコンは、冷蔵庫なければ省略で。それに油揚げとこんにゃく。主役の豚肉は、細切れが少しあれば大丈夫。

 大量の野菜を切り、こんにゃくや油揚げの下準備を済ませ、大きな鍋を取り出す。豚汁の作り方を見てみると、油で具を炒めずに煮る派と、具を炒めてから煮る派があり、賛否両論あるようだが、私は炒める派だ。少量の胡麻油で材料を軽く炒めてから、水を入れてダシを加えて煮込む。

豚汁。味噌、豚肉、そして具だくさんの野菜が味を引き立たせる。

 ちょいちょいとアクを取りつつ、野菜が柔らかくなったら仕上げに味噌を加えて完成。鍋いっぱいに豚汁が出来上がると、それだけで満たされた気持ちになる。

 豚汁があれば、あとは白いごはんがあれば十分。野菜や豚肉の脂の甘味を含んだ汁をひと口飲むと、なぜか「ふう」と息がもれる。あの吐息は、安堵の条件反射みたいなものだろう。

 おそらく昔の人も同じように、豚汁をすすって、吐息をもらしていたに違いない。だが、その「昔」とは、はたしてどのくらいまでさかのぼれるのだろうか。

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1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


食の源流探訪

日本人が日常茶飯としている定番食。あまたある食べものの中で、
なぜそれが定番になり得たのか。どのように日本化されていったのか。
「新・日本食」の源流からの流れを、歴史をひもときながら考察する。