“あん”と出合って完成した日本料理「天津飯」

発想の起源は中華丼にあり?

2013.09.13(Fri) 澁川 祐子
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 中華料理店に行くと、いつもご飯ものを炒飯にするか、丼ものにするかで悩む。卵のからんだパラパラとしたご飯もいいけれど、とろりとしたあんかけが沁み込んだ白米も捨てがたい。

 しかも丼ものには、いろいろな種類がある。野菜や魚介、肉が載った具だくさんの中華丼もあれば、あんかけに包まれたふわふわのカニ玉が載った天津飯(または天津丼)もある。もっと味にパンチがあるものが欲しければ、麻婆丼。ボリュームを求めるなら、豚の角煮や牛バラ肉を煮込んだあんかけご飯もいい。

 このように日本では、丼ものは炒飯と二分するくらい、中華のご飯ものメニューの代表格である。だが、本場中国でも同じかと言えば、ご飯にあんかけの具を載せるという食べ方は実は、王道ではないらしい。

 中国には、いろいろなおかずをご飯の上に載せて食べる「蓋飯(ガイファン)」や、あんかけをはじめ汁気のある炒め物をご飯にかける「燴飯(ホイファン)」といった料理がある。だが、これらはあくまで手早く食事を済ませたいときの簡単メニュー。通常の食事では、ご飯とおかずを別々に食べるのが基本だ。

 おまけに中華丼や天津飯に至っては、中国にはそもそも存在しない料理である。それにもかかわらず、日本の中華料理店では、必ずと言っていいほどメニューにあるのが謎に思えてくる。

同じ頃に東京と大阪で誕生?

 その謎を解くカギは、中華丼や天津飯に共通する、「あんかけ」にあるのではないか。日本で中華の丼ものが根づくにあたって、あんかけという要素がいかに重要だったかは、天津飯のルーツをたどってみるとよく分かる。

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1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


食の源流探訪

日本人が日常茶飯としている定番食。あまたある食べものの中で、
なぜそれが定番になり得たのか。どのように日本化されていったのか。
「新・日本食」の源流からの流れを、歴史をひもときながら考察する。