まずAとBを比較する。次に、CとDを比べる。そしてDとAがもたらす満足度を吟味する。比較と検討を繰り返すと、どれが自分にとって最適な選択肢かを決めるのは容易ではない。
頭が混乱してくることもある。理屈としては良いことのように見えていても、結果的に納得できない逆の結論に行き着いてしまう。これを行動経済学では“選択のパラドックス”と呼ぶ。パラドックスとは、逆説のことである。
選択肢が多すぎると決められない心の働きを確認する実験もあった。コロンビア大学の研究者は、スーパーマーケットにジャムの試食コーナーを作った。24種類のジャムと6種類のジャムの組み合わせを作り、陳列時間を入れ替えて提供したのだ。2つの組み合わせごとに消費者の反応がどうだったかを確認すると、選択肢の少ない6種類のジャムを購入した人が多かった。
ビジネスでは、「プレゼンテーションのポイントは、一つに絞ると良い」と言われることが多い。情報が増えるほど、私たちは何が重要か、判断することが難しくなるものだ。消費者の潜在的な需要をつかむために選択肢を絞ることは、企業が収益を獲得したり、ヒット商品を生み出したりするために重要と考えられる。
選びやすい環境が選択を助ける
――選択の迷いがなくなる“今日のおすすめ”の効果
企業で商品の開発や営業などを担当している人にとって、消費者の選択肢を増やすことは重要視していることだろう。そうすることで、若年から高齢者、様々な所得層などの幅広い顧客をターゲットにできるかもしれない。当初の予測通りに売り上げが増えない展開(リスク)に備え、あらゆるパターンの方策も準備できる。
一方、選択肢が多いと私たち(消費者)は何がベストなチョイスなのか、選ぶことが難しくなる。この“選択のパラドックス”は、前述した通りだ。選択肢が多い場合、私たちはどれが自分に合うか思い悩む。Aを選択しようとするとB、C、D、Eなど他の選択肢も気になる。
選択したことで、他の選択を諦めた後悔(意思決定の失敗)を感じることもあるだろう。迷った挙句、今回はやめておこうと思うこともある。選択に不安を感じると意思決定は難しくなり、無力感が高まる人もいる。そうなると消費者の関心は他の企業、他の商品に向いてしまうかもしれない。