
アダム・スミスが提唱した“神の見えざる手”に代表されるように、元来、経済学の世界は「人間は合理的に行動する」ことを前提としている。ところが生身の人間がつくる経済社会においては、必ずしも合理的とは言えない行動が数多く存在しており、心理学的アプローチを踏まえて人間の経済活動を分析する「行動経済学」が、近年ビジネスにおいて注目されるようになってきた。本連載では『悪魔の教養としての行動経済学』(真壁昭夫著/かや書房)から、内容の一部を抜粋・再編集。AI研究にも生かされ始めている行動経済学の視点から、良くも悪くも人間の意思決定に影響するマーケティング戦略について考察する。
今回は、フリマアプリ、シェアリングサービス、SNSなどをきっかけに消費者の行動様式がいかに変化してきたかについて解説する。
認知・訴求・調査・行動・推奨の“5つのA”
――企業と消費者の接点を増やすマーケティングの本質

コトラー教授が提唱したマーケティング4.0の中に、“5つのA”のコンセプトがある。
認知(Aware)、訴求(Appeal)、調査(Ask)、行動(Act)、推奨(Advocate)だ。
順に確認すると、デジタル時代の消費者と企業が提供する商品がどういう関係にあるか、それを活かすために企業がどういった戦略を策定すべきかを考えることができる。
最初の認知(Aware)は、知っている・誰かから知らされることを意味する。体験や友人が使っていなことなどをきっかけに、消費者は企業が提供する商品の存在を知り、過去の経験を思い出す。テレビCMで目にしたことがある、といったことがこれに該当する。
次の訴求(Appeal)の段階で、消費者(顧客)は自分に合う、気に入ると考えるいくつかのブランドに関心を向ける。訴求という言葉になぞらえて考えると、企業は消費者の経験などを頼りに、心に刺さりそうなモノやコトをアピールする。
消費者は、その中から気に入った少数のブランドの購入を検討する。消費者の心理は、「知っている」から一歩進んで、「気に入った」というレベルに移る。