
アダム・スミスが提唱した“神の見えざる手”に代表されるように、元来、経済学の世界は「人間は合理的に行動する」ことを前提としている。ところが生身の人間がつくる経済社会においては、必ずしも合理的とは言えない行動が数多く存在しており、心理学的アプローチを踏まえて人間の経済活動を分析する「行動経済学」が、近年ビジネスにおいて注目されるようになってきた。本連載では『悪魔の教養としての行動経済学』(真壁昭夫著/かや書房)から、内容の一部を抜粋・再編集。AI研究にも生かされ始めている行動経済学の視点から、良くも悪くも人間の意思決定に影響するマーケティング戦略について考察する。
今回は、好きなアイドルなどを応援する「推し活」が増加しているケースを例に、群集心理を利用した消費者参加型ビジネスの戦略について解説する。
集客率を上げるバンドワゴン効果
――多くの人が支持することで関心がなかった人も同調

ブームを起こすには、人々がキャラクターなどの存在を認知し、体験して、満足感を得る機会が必要だ。そのために人々の関心を引き付ける宣伝文句を作り、イベントを開催することは多い。
宣伝に活用できるものは多い。街中を走る電車やバスなどにイベントで取り上げるキャラクターの画像を張り付けてアピールする(ラッピング列車などと呼ばれる)。テレビCMで人気のあるアイドルを起用して、「○月〇日は、みんなで△に集合! 入場者特典もあるよ!」と視聴者に呼びかける。
“売り”を宣伝することにより、イベントに参加する人は増えるだろう。参加する人が増えれば、ブームなどが起きる可能性は高まる。
このように、特定の選択肢などを多くの人が支持し、それまで関心がなかった人も同調して動くことを“バンドワゴン効果”と呼ぶ。バンドワゴンとは、賑やかな曲を演奏している楽団が乗った車(ワゴン)のことだ。賑やかな音楽につられて、何となくついていってしまう。そうした心理を表しているのがバンドワゴン効果である。