それを可能にしたのはAI=人工知能の成長だ。AIは膨大なユーザーの選択履歴などをビッグデータとして学習し、物事の因果関係を推論する。ユーザーが関心ある動物や料理など、特定のキーワードをアルゴリズムが認識し、それに合うおすすめの動画を流す。ITの技術向上もあり、素人でも手軽にハイクオリティーな動画を作成することもできる。
しかも、1本の動画は15~60秒と短い。長時間の動画を見続ける必要はないのだ。隙間の時間を活用して気軽に好みに合った動画を視聴し続けることができる。面白くないと感じた動画があっても、すぐ次の動画が流れる。それも新規ユーザーの獲得に貢献した要素と考えられる。
これは学生のように日々勉強や部活などに忙しい世代でも、SNSに時間を取られてしまうという、ある種の罪悪感を持ちづらい工夫が施されているとの見方もできる。視聴数が伸びることで、新しい動画を作成しようとする投稿者の意欲も出る。人気ティックトッカーの発信力は高まり、広告などの需要は増える。
行動経済学の理論を用いて考えると、TikTokは選択肢が多くて決められないという心の働きを逆手に取った。選択肢が多いことで悩むなら、はじめから選択する必要性が低い、あるいは、ない環境を作る。選択の手間が省けたことで、無意識のうちに快適さを感じる人は多いだろう。
おすすめ動画をアプリが流し続けることで、ユーザーはTikTokの世界にはまる。動画を見たり、投稿したりし続ける。TikTokは、今やっていることをやり続けるという、“動きの心の慣性の法則”も活用した。
心の働きに着目することで、TikTokは“中毒性”があるといわれるような世界的ヒットを実現した。今後、AIの成長が進むことで、人々の選択の手間を減らし、現状維持バイアスなども活かして収益を得ようとする企業は増えるだろう。
<連載ラインアップ>
■第1回 世界的ヒットを生み出すTikTokが持つ“中毒性”「選択のパラドックス」を逆手に取った戦略とは?(本稿)
■第2回 ネットフリックスの“おすすめ”に、なぜ人はつられてしまうのか? ビッグデータが刺激する消費者の潜在意識とは(12月24日公開)
■第3回 音楽の楽しみ方を変えたソニーの「ウォークマン」は、いかにして一大ブームとなったのか?(1月10日公開)
■第4回 なぜ「推し活」でファンが増えるのか? 群集心理を巧みに突く消費者参加型ビジネスの戦略(1月23日公開)
■第5回 「バンドワゴン」「スノッブ」「ヴェブレン」…企業のマーケティング戦略で押さえておくべき3つの消費者心理とは?(1月30日公開)
■第6回 SNSが変えた消費者の行動様式、フリマアプリとシェアリング普及の背景にある“5つのA”とは?(2月6日公開)
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