DXの導入により、各企業で仕事の内容や進め方が大きく変化している。従業員のリスキリングやITエンジニアの採用、IT企業との協力に多大な資金とエネルギーが費やされている。だが一方で、肝心のチームマネジメントが従来の“日本的な管理方法”のままであるため、企業や組織、そして働く人がDXの恩恵を享受するに至っていない――。本連載では『DX時代の部下マネジメント』(ロッシェル・カップ著/経団連出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。変革の時代のリーダーシップのあり方とは? そしてチームの究極の姿である「自ら動く自己管理型チーム」を創出するには? GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)など世界一流の企業で採用されているマネジメント法から、DX時代に合った具体的な手法を紹介する。
第1回は、ビジョンを語ることがなぜチームや部下に優れた効果をもたらすのか、スティーブ・ジョブズの言葉を引用しながら解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 スティーブ・ジョブズの言葉に学ぶ 部下の士気を上げるには、なぜ“ムチ”より“アメ”がはるかに有効なのか?(本稿)
■第2回 なぜ部下は、すぐにあなたを頼ってしまうのか? 指示待ち型の部下を自ら動かすための「11の戦略」
■第3回 なぜアメリカ人は、大げさな言葉で相手をほめるのか? 部下の心に響く「ポジティブ・フィードバック」とは
■第4回 グーグルでも実証 「心理的安全性」を高め、チームのハイパフォーマンスを生み出すための舞台設定とは?
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■ ミッションとビジョンの違い
かつては、会社や上司が掲げた目標に対し、従業員は当然のようにがんばって取り組むだろうという考え方が一般的でした。「会社のため」や「上の人がそう希望するから」、あるいは単に「給料をもらっているから」、従業員の皆が当然、全力を尽くすだろうという期待が強くありました。
本当にそうだったのかは議論する余地がありますが、現代の従業員、特にDX関連などに従事する知識労働者にとっては、そうした考えは十分な動機にはなり得ません。いまの従業員は「自分がやっている仕事がなぜ大事なのか、どのように社会に役立つのかを実感したい」「何か大切な目標を達成するために他の人と一緒に組んで仕事をしたい」と考えているのです。
自分の仕事の重要さを把握できると、それが動機の種となり、自発的な努力につながります。一方、「言われたから」以外の理由がないとしたら、その仕事に対して熱意が湧くことはないでしょう。義務感から最低限の仕事はするかもしれませんが、仕事の重要性を実感しないかぎり、プラスアルファを生み出すことはなかなかしないでしょう。
多くの上司はそのことを理解しないまま、命令や(極端な場合)脅迫で部下を動かせると思っています。要するに、自分の「上司」としてのステータスを使って、いわゆる「ムチ」を振り回します。
しかし、部下はそのように支配されると、士気が下がります。ムチより有効な方法は、魅力的なビジョンという「アメ」を提供することです。スティーブ・ジョブズがその現象をこう表しました。
「あなたにとって大切で刺激的なことをやっているならば、プッシュされる必要はない。ビジョンがあなたを突き動かしてくれる」
従業員が自分の仕事に対して熱意を持っている場合、自発的に全力を尽くします。そうするとリーダーの課題は、部下が、自分が与えられた仕事を「大切で刺激的」だと感じ、熱意を持てるようにするためには、どうしたらよいかということになります。部下に仕事を与える際、リーダーにまず必要なのは、なぜその仕事をしてほしいのかを説明して、その仕事の意味を伝えることなのです。
「船を造りたいのなら、木材を集めるために人々を募集して、仕事を分担し、彼らに命令を下すのではなく、広大で果てしない海への憧れを教えなさい 」
フランスの作家アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリはこう記しましたが、これは現代の従業員にもあてはまります。目指すゴールはなぜ有意義なのか、なぜ大切なのか、なぜ魅力的なのか、なぜやりがいがあるのか。これらを伝えることはとても重要です。