ミッションは従業員の理性に論理的な説明を通じて働きかける一方で、ビジョンは従業員の心にアピールするものです。従業員はビジョンに共感することで、リーダーを支持し、付き従うようになります。「あのビジョンをどうしても実現させたい」と感じられるから、部下は熱意をもって努力するのです。

 部下の心に響くビジョンを示せなければ、部下は義務で仕事に従事はしても、全身全霊を注ぎ込むことはありません。従業員の定着率を高め、エンゲージメントや、すぐれた結果を手に入れたいのであれば、心に響くビジョンを提示することが不可欠です。

 自分の組織やチームがより大きな会社や組織の一部であれば、全体的なミッションとビジョンがあるはずです。その場合、自分のチームのビジョンは全体のビジョンをサポートすることです。たとえば、製薬会社の全体のビジョンが「がんのない世界の実現」であれば、経理部のビジョンは「全従業員の支えになる円滑で使いやすい経理システムを提供することによって『がんのない世界の実現』に貢献する」のようなものになります。

 皆さんも、自分のチームのミッションとビジョンを書き出してみてください。そして、できるだけ客観的にチェックしてみてください。上手に表現できているでしょうか? ミッションは具体的でわかりやすいものになっていますか? 部下はそのビジョンに惹かれるでしょうか? もし不十分だと思ったら、十分インパクトのあるものになるように書き換えたり編集したりしてみてください。

 これはとても大事な点です。ビジョンは、自分が実現したいという気持ちになるものでしょうか? 自分自身が熱心にそのビジョンを追求したいと思うのであれば、それは自然と伝わり、他の人をも感化します。しかし、自分自身があまり感情移入できないビジョンなら、いくらそれを語っても他人にはあまり響かないでしょう。

<連載ラインアップ>
■第1回 スティーブ・ジョブズの言葉に学ぶ 部下の士気を上げるには、なぜ“ムチ”より“アメ”がはるかに有効なのか?(本稿)
■第2回 なぜ部下は、すぐにあなたを頼ってしまうのか? 指示待ち型の部下を自ら動かすための「10の戦略」(10月8日公開)
■第3回 なぜアメリカ人は、大げさな言葉で相手をほめるのか? 部下の心に響く「ポジティブ・フィードバック」とは(11月15日公開)
■第4回 グーグルでも実証 「心理的安全性」を高め、チームのハイパフォーマンスを生み出すための舞台設定とは?(11月22日公開)

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