多くの上司は日常業務に追われ、頭も手もいっぱいいっぱいになっています。そうしたタスクをこなすことは重要ですが、それだけでは、リーダーではなく単なる「管理者」になってしまいます。リーダーの大事な役割のひとつは、チームが目標を共有し、皆がそれに向かって行動するようにすることです。そのためには、チームが目指すビジョンとして、ぜひ実現させたい魅力的な将来の像を描くことが必要になります。チームの仕事の結果として、どんなすばらしいことが起こるのかを明確に伝えなければなりません。

 ここで多くの人が混乱するのが、「ミッション」と「ビジョン」の違いです。この2つの言葉を、意味の区別なくほとんど同義で使う人がいますが、正しく区別することが大切です。部下には、ミッションとビジョンを明確にして伝えることが不可欠ですが、多くの組織やチームはミッションだけを定義して、ビジョンまで定義しようとしません。ここで、その両方の定義について考えてみましょう。

 まず、ミッションとは、ある組織やチームの存在理由です。仕事内容の定義に近いイメージで、チームの目標や責任、行っているタスクから構成されます。普通の組織であれば、それらは自然と明確になっています。たとえば、ECサイトのセキュリティチームのミッションは、サイトにハッカーが侵入しないように必要な措置を講じ、継続的にそれを管理して予防体制を維持することです。

 一方、ビジョンは、ミッションを達成することによって、世の中はどのようによくなるのかという、目指したい将来像です。要するに、何か高潔な目標を立て、それを生き生きと説明することです。英語のvisionには「視覚・視力」という意味がありますので、ビジョンとは、皆が心の中で思い描くことができる、目指したい将来の姿を示すものです。

 たとえば、ECサイトのセキュリティチームのビジョンは「わが社の◯百万人の顧客が、わが社のサイトを安心・安全に利用できるように、悪者から完全に守ること」

 これは、あるECサイトのセキュリティ部門のリーダーが背筋を伸ばし、誇りをもって口にしたビジョンです。自分の組織のビジョンが十分に迫力があるかをチェックするために、「胸を張って言えるか」「家族や友人に言うときに、誇りを感じるか」を自分に問うてみるとよいでしょう。