ユニバーサルデザインをトヨタ自動車で初めて具現化した「ラウム」と、当時の開発担当者だった北川尚人氏(撮影:1997年5月)写真提供:共同通信

「ものづくり大国」として生産方式に磨きをかけてきた結果、日本が苦手になってしまった「価値の創造」をどう強化していけばよいのか。本連載では、『国産ロケットの父 糸川英夫のイノベーション』の著者であり、故・糸川英夫博士から直に10年以上学んだ田中猪夫氏が、価値創造の仕組みと実践法について余すところなく解説する。

 第8回では、トヨタ自動車における価値の創造主・チーフエンジニア(CE)の心得10カ条を紹介する。

トヨタはどのようにチーフエンジニアを育成してきたか

 第7回で紹介した通り、創造性組織工学(Creative Organized Technology)におけるプロフェッショナルマネージャー(PM)のジョブディスクリプションは、①ゼネラリストであること、②全てのメンバーと等距離で付き合う、③イマジネーションのない人は失格、④クールなドリーマーたれ、⑤不可欠なWOG(ウォッグ、Writen=書く能力、Oral=話す能力、Graphic=ポンチ絵やチャートにする能力)の表現能力の5つだ。

 素朴な疑問として、トヨタ自動車(トヨタ)はどうやって経営に直結する価値の創造主であるチーフエンジニア(CE)を発掘・登用し、育成しているのだろうか。トヨタのCEのOBが書いた書籍にはOJT(職場内訓練)が育成の基本とあるだけで、開発センター(製品企画室)に異動する人材のジョブディスクリプションは明確には示されていない。

 おそらく、第4回で紹介した「1953年~1960年代:主査室(主査4~6人の規模)、1970年~1980年代:製品企画室(主査10~20人の規模)、1990年代~:開発センター(主査からCEに名称変更)」というCEの属する組織変遷から発掘・登用のノウハウが蓄積されているのではないかと推測できる。

 スティーブ・ジョブズが才能のある人材を発掘することが可能なように、価値創造の経験者であれば、それができる人材を早い段階で発掘し育成することが可能だからだ。

 トヨタのCEのジョブディスクリプションは明らかになっていない。しかし、CEの資質や行動指針は、主査制度の提唱者である長谷川龍雄氏や技術担当副社長時代に初代プリウスの開発を主導した和田明広氏の10カ条として、若者向けのbBやグローバルモデルのカムリのCEだった北川尚人氏が、『トヨタチーフエンジニアの仕事』(北川尚人著、講談社+α新書)で、次のように明らかにしている。時系列の順に見ていこう。