コンテンツ大国の日本が目指すべき未来

――生成AIの分野では海外が先行する一方、日本企業が世界で生き残るために、どのような分野に着目すべきでしょうか。

山本 私は、コンテンツ産業に日本の可能性を感じています。テクノロジーが発展する時代だからこそ、コンテンツの分野における日本の強みを生かさない手はないと思うのです。

 例えば、1983年に任天堂が発売した「ファミリーコンピュータ」は世界的なヒットとなりましたが、世界最先端の技術や性能を備えていたわけではありません。ヒットを生んだ大きな要因は、「家の中でゲームを楽しむ」という世の中のユースケースにぴたりとハマったことです。ゲームやアニメは「日本のお家芸」ともいえるコンテンツですから、これを生かさない手はないはずです。

――ゲームやマンガ、アニメを海外に広める上でのポイントは何でしょうか。

山本 アニメーションにおいては「ストーリーに感情移入できるか」が肝になります。どんなにお金をかけて高画質で精巧な動画を制作しても、感情移入できなければ人気は出ません。

 一例として、スーパーマリオというキャラクターを使ったコンテンツがあります。スーパーマリオのゲームが大ヒットしていた1990年代、実写映画化に取り組んだものの、あまり話題にはなりませんでした。一方、2023年に公開されたアニメ映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は世界的なヒット作となりました。

 ここでの勝因は「ストーリーを国内海外問わず受け入れられる展開にしたこと」と考えられています。テクノロジーそのものも大事ではありますが「ストーリーをどう見せていくか」、そして「キャラクター、アニメ、グッズ、小説など、多様な接点でいかに世界観を作れるか」が重要です。

 特に、キャラクターのビジュアルに言語の違いは問われないので、そこに生成AIを絡めて異国の人をつなぐことには大きな可能性があると思います。コンテンツ大国の日本が目指すべき山は、そこにあるのではないでしょうか。

 テクノロジーを活用した例としては、マンガに特化した「ローカライズ支援ツール」が挙げられます。効果音や書き文字など、日本のマンガ特有の表現を自動解析し、各言語に翻訳するシステムです。こうした仕組みを活用することで、翻訳にかかるコストを大幅に削減し、短時間で多言語に配信することも可能です。

 また、将来的にはキャラクター設定やストーリー展開まで生成AIで作ることも可能になるでしょう。そこからヒット作品が生まれる可能性も十分あります。「人はどのような展開に感動するのか」を科学し、生成AIを活用することで、天才漫画家だけに頼らない漫画の形を生み出せるかもしれません。