生成AIが「ディープテック」の世界にもたらした革新

――著書では、すでに生成AIがイノベーションを巻き起こした「創薬」の分野について解説しています。具体的には、どのようなインパクトをもたらしたのでしょうか。

山本 例えば、米アルファベット傘下のGoogle DeepMindが開発した生成AI「アルファフォールド」は、体内に存在するタンパク質の3次元構造を分析することで、薬による体内の化学変化を高精度で予測することを可能としました。

 人間の体内に存在するタンパク質は、数多くのアミノ酸がつながって構成されています。そのアミノ酸は複雑に折りたたまれているため、アミノ酸の配列自体は分かっても「立体的にどうなっているか」が分からなければ、薬による化学反応を予測することは難しいといわれていました。

 これまで多くの研究者たちがアミノ酸の3次元構造の解明に尽くしてきましたが、これは知恵の輪を解くような複雑さであり、多大な時間とコストがかかる解析作業でした。ところがアルファフォールドの登場により、時間をかけずに高精度でそれらを予測できるようになったのです。これにより治療薬の開発や薬物の標的の特定など、多大な貢献を果たしています。

 Google DeepMindの公表情報によると、アルファフォールドは「人体に入っているタンパク質の構造は、ほとんど解明できた」としています。従来の研究に要していた長い年月を考えると、とてつもないイノベーションです。アルファフォールドは創薬の分野において「なくてはならない存在」になりつつあるのです。

 日本国内にもバイオテクノロジーやヘルスケアの企業は数多く存在しますが、今後、アルファフォールドが誕生したことによる影響も広まるはずです。アルファフォールドは、医療や創薬といったディープテックの分野においても、生成AIが影響を及ぼしていることを示す好事例と言えます。