店員さんが「この店はご結婚をされる際の家具セットも取り揃えているんだけど、ご両親と同伴で来る方も多くいるんですよ。ましてや子供さんの入学シーズンともなればご家族連れで来店されて、学習机だ、ランドセルだと店内は結構にぎわうんです。そんな時に大人数でもゆっくりとどの家具にするのかといった話をする場所がいるので、このスペースをつくったんです」とのいきさつを話してくれました。その時ふと小林部長の言葉を思い出しました。

「まず相手の都合からものを考えるということ。レストラン、喫茶店といった従来の延長線上から新規開拓を考えないこと」

 案内してくれた店員さんが去った後、店長が来るまでのちょっとした時間に徳田に相談します。

「ここをお客さんが自由に飲料を飲めるスペースにしたらどうだろうか。店内だから機材の管理も楽だし、紙コップを使ってもらったら後片づけも簡単だろう。サービスで飲料を提供してくれて、ゆっくりと品定めができる家具店というだけで、他の店を大きく引き離すことができるんじゃないか。大勢のお客さんも喜んでくれると思うし、この店にとっても悪い話じゃない。ウチにとっても新しい売り場をつくることができる。どうだろう」

 横を向いて考える徳田。そのすぐ後に「よし。ダメ元で話をしてみるか」と。

 しばらくして店長がやってきました。手持ちのフードサービスの機材カタログを彼の前に広げ、急ごしらえの提案です。

 突然の商談の場になりましたが、私たちの話をうなずきながら聴いてくれる店長にこれからの道が開けたような気持ちになりました。結局「お客さんが喜ぶなら、やってみよう」という店長の一言で機材を置いてもらえることになりました。

 飲料ビジネスとはまったく関係がないと思われる家具店の店内の真ん中にファミリーレストランさながらのドリンクバー。これまでの感覚では考えられません。

 そこにはゆっくりと話をしたい、大きな買い物の合間に少し休みたいという多くのお客さんの存在があります。お店としてはお客さんと落ち着いて商談ができる場にもなります。そこによく冷えた飲料があるとお互いが嬉しくなります。部長から言われたことを思い出します。

「商品を買ってくれる、機材を置いてくれることが先じゃなくて、我々の売りモノを欲しい、あったら嬉しい、我々の機材を置いたら便利になる。そういうところはどこか。まず相手の都合から考える。新規開拓はいままでの延長線上でものを考えないことだ」

 宿題でもらった問いの答えの1つを思いもかけない現場で見つけることができたのです。

<連載ラインアップ>
■第1回 「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?(本稿)
■第2回 持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?(10月9日公開)
■第3回 日本コカ・コーラのセールスコンテストで日本一をとった男が、「社内営業」の大切さを知った“長老”の苦言とは(10月16日公開)
■第4回 アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?(10月23日公開)
■第5回 日本コカ・コーラで学んだ、仕事の成否を大きく左右する「6つのステップ」とは?(10月30日公開)
■第6回 組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本(11月6日公開)

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