押し黙っている私に「お前はまずレストランや喫茶店に自分たちの製品を買ってもらいたい、機材を置いてもらいたいと考えているんじゃないか」との質問が飛んできます。

 確かにその通りです。それがいまの仕事なので、「はい、それは、そうです…」と力ない返事をします。

「もしそう考えているんだったら順番が違うぞ。それはこちらの都合で考えているということじゃ。商品を買ってくれる、機材を置いてくれることが先じゃなくて、我々の商品が欲しい、あったら嬉しい、我々の機材を置いたら便利になる。そういうところはどこか。まず相手の都合から考えるということだ。営業はその順番に気を付けること。ひょっとしたらレストランや喫茶店じゃないのかもしれん。新規開拓はいままでの延長線上でものを考えないことだ」

 それはその通りと思いつつ、こちらの商品を求めているところ、そこまでいかなくてもあったら嬉しいところってどこだろう。顎に手を当て考えながら部長の顔を見上げますが、答えは見つかりません。

 小林部長はそれだけ言うとさっさとどこかに行ってしまいました。私はなんだか答えが見つからない宿題をもらった気分でした。しばらくたってから、ルート営業時代の同僚の徳田からの連絡です。

「マナベインテリアハーツという大きな家具屋さんがあるんだが、お客さんとゆっくり話ができるよう店の中央にちょっとしたスペースを設けるというので、自販機コーナーを提案しようと思うんだ。暇だったら一緒に行かないか」

 暇だったらという言い方に少し反発を感じながらも、知り合いのお店でも紹介してくれるかもしれないと思い「じゃあ、場所を教えてくれ」と返事をしました。

 指定の時間にマナベインテリアハーツに向かうと徳田が駐車場で待っています。

「おう、悪いな。ルート営業時代に戻るのも気分転換になるぞ」

 こちらの状況を知ってか知らずか相変わらずの口調ですが、悪い気はしません。マナベインテリアハーツは県内でも屈指の大型家具店で見渡すほどの店内には大型家具から学習机、ランドセルまで陳列されています。店員さんに案内されて店の中央まで進むとまるで喫茶店のようにテーブルが置かれている少し広めのスペースが設けられています。