Luis G. Vergara – stock.adobe.com

 「営業は断られてから始まる」と言われる。だが、話術だけで成約に導けるほど甘くはなく、1度成功したアプローチが2度通用する保証もない。「買う・買わない」の決定権を相手が握る中、営業担当にできることは何か、すべきことは何なのか? 本連載では、日本一の営業成績を認められ、初めて地方ボトラーから日本コカ・コーラへの出向を果たした山岡彰彦氏の『コカ・コーラを日本一売った男の学びの営業日誌』(山岡彰彦著/講談社+α新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。顧客視点や組織力の大切さに気付いていく学びの足跡をたどる。

 第1回は、ルート営業からフードサービス営業に異動した著者が、壁にぶつかりながらも新規顧客獲得に至った際のエピソードを紹介する。

<連載ラインアップ>
■第1回 「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?(本稿)
■第2回 持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?(10月9日公開)
■第3回 日本コカ・コーラのセールスコンテストで日本一をとった男が、「社内営業」の大切さを知った“長老”の苦言とは(10月16日公開)
■第4回 アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?(10月23日公開)
■第5回 日本コカ・コーラで学んだ、仕事の成否を大きく左右する「6つのステップ」とは?(10月30日公開)
■第6回 組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本(11月6日公開)

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いままでの延長線上で考えない

 スーパーやコンビニ、自販機で売られている瓶や缶、ペットボトルといったパッケージ充塡された商品とは異なり、フードサービス部門の製品は、それぞれの売り場でディスペンサーという機械によって商品になるので、お客様が手に取る直前までかたちになっていません。

 よくファストフード店やコーヒーショップのカウンターの反対側で店員さんが容器に飲料を注いでいるあの機械で商品にしているのです。お店によってグラスやカップのサイズも違い、ファミリーレストランのドリンクバーだとあらかじめ定めた量目で販売するという概念すらありません。私のこれまでの経験則がそのままでは通用しないということです。

 フードサービス部門の主な市場はレストランやファストフード店ですが、そのほとんどはこれまでの営業活動でしかるべきお店にはすでに機材が設置されています。つまり、この市場で新規開拓を進めるのはそう簡単ではないということです。

 そんな状況でも毎日新規開拓に行かなければ仕事になりません。最初のうちはなんとか見つかった訪問先も、1ヵ月もするとリストは余白だらけです。行くところがありません。

 営業の仕事は外回りがほとんどですから、一旦会社を出てしまえばどこで何をしようが上司にはわかりません。仕事を怠るとそのまま成績にはね返ってきますが、わかっていながらも喫茶店に入って時間をつぶしたり、クルマの中で昼寝をしたりと現実逃避の日々を過ごすことになってしまいがちです。なにしろ訪問しようにも行く先がないのですから。

「このままだとどうなってしまうのだろう」

 不安は日を追うごとに大きくなっていきます。月初めの定例会議のことを考えると頭が痛くなり、眠れない日が続きます。

「どうだ、調子は」

 背中から声を掛けられ、振り向くと小林統轄部長です。

「最近はちょっと、厳しいです…」

 少し躊躇しながら曖昧な返事で応えます。

「いま、どんなところを回っているんだ」

 さらに踏み込んできます。

「レストランとか喫茶店とかそういったところです」

 やっていることをそのまま答えます。

「新規開拓といっても毎日行くのはきついだろう。ましてや限られた市場だ。そんなに都合のいい訪問先がそうそうある訳じゃない。そうじゃなかったらこの時間にここにいることもないだろう」

「ええ、まぁ…」

 いきなり核心を突かれて言葉がありません。忙しそうに働いているオフィス勤務の同僚たちがチラチラとこちらを見ています。昼過ぎのこの時間に自分の机で急ぎでもない書類をつくって時をやり過ごしている自分がなんとも情けなくなりました。

「ちょっと教えて欲しいんじゃが、お前は何を考えて新規の取引先を探しているんだ」

 やれやれ説教か。この状況で辛いなと思いながらも黙って話を聞くしかありません。