全社員向け、ITヘルプデスク専用、法人事業の営業向けなど、生成AIを使うための複数の社内ポータルが用意されている。法人事業の営業向けでは、「文章の内容を要約して」など頻繁に使われるものに関しては、ボタンを一度押せば生成AIが回答する。ChatGPTのように必ず会話を経なければ答えが返ってこないわけではない。

 業務利用を考えた場合、多くの企業が気にかけるのはデータの安全性。生成AIに入力した社外秘のデータが社外に漏れたり、外部への生成AIの回答結果として用いられたりするようなことがあれば一大事だ。ソフトバンクでは、ChatGPTをはじめとした外部のクラウドサービスの利用に関するルールを定めている。さらに社内で安全に利用できるソフトバンク版AIチャットを用意した。

 突然、生成AIの利用環境だけを全社員に提供しているわけではない。2021年度に「AI Campus from SBU Tech」というAI人材育成プログラムをスタートさせ、基礎的な知識に関しては約2万人の全社員に学ばせた。実務にAIを活用する場合にトラブルの原因になりがちなAI倫理も学ばせている。基本的な考え方に加え、10以上の実際のAI倫理に関する事件・事例などを伝えた。技術系部門ではAIの活用、実践が可能な人材の育成を進める。

■社内コンテストへの応募は10万件

 2023年5月から開催された生成AI活用コンテスト。初回コンテストでは10日間で約5万2000件の応募があった。その後も継続して開催されており、アイデアは10月の時点で累計10万件を超えている。

盛り上がる生成AI活用コンテスト
ソフトバンクの資料を基に作成
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 全社員を巻き込んだアイデア合戦はソフトバンクの伝統といっていい。ただし、生成AIが話題だからといって、漫然とアイデアを募集しても社員が活発に応募するわけではない。実はコンテストには大きなニンジンがぶら下げられている。

 最も優秀だと認められたアイデアには毎回1000万円の賞金が贈られる。1回の賞金総額は2500万円。1位だけではない。上位には相応の賞金が与えられるし、数千位までPayPayのポイントが付与される。社内コンテストの規模としては破格だ。

 出来のいいアイデアに関しては、特許出願を進めている。孫がSoftBank World 2023の基調講演に立った10月4日の時点で、生成AIに関する特許出願の数は1万件を超えたという。重要なものに関しては特許出願で情報が公開されるリスクを考慮して、あえて取りやめるケースもあるという。

 自らもグループ内で最多の890件の特許を申請したという孫は、ソフトバンクによる特許出願数が日本企業で最多になる可能性を指摘し「生成AIというテーマだけで1万件を突破した企業はおそらく世界一ではないか」とぶち上げた。