バッファをプロジェクト全体で精緻に管理する
CCPMの導入手順をもう少し具体的に説明しましょう。導入には次の4つのステップがあります。
①担当者レベルのスケジュール出しのためのヒアリング(ODSC:Objectives/Deliverables/Success Criteria)
各部門の担当者に質問して、自分が何をするのか考え、深く理解してもらうステップです。上図のように自分が担当する業務の目的、成果物、成功基準などを問いかけて確認してもらいます。その上で、バックキャストで工程を洗い出し、そのタスクに現実的にどれぐらいの日数がかかるのか、明らかにしていきます。誰かのサポートが必要であればその日数も正確に見積もります。
②後戻りしない全体スケジュールの設定(Backward scheduling)
後戻りを防ぐため、またメンバー全員に必要十分な業務のみに集中してもらうため、最初にきっちりと計画を立てます(上図の上段)。
このときに重要なのが「クリティカルパス」を明らかにすることです。クリティカルパスとは、全ての工程を最短で終えるための鍵となる作業経路のことです。
例えばスマート血圧計の場合、システムの開発に最も時間がかかり、無事開発を完了させて後工程に回す期日を厳守できるかが、全体の工期を大きく左右することが分かりました。このような作業経路がクリティカルパスで、関係者全員が認識しておくことが大切です。クリティカルパスを中心に、進行状況を頻繁に確認し対策を取ることで、工期全体を維持できるからです。
③バッファを排除した挑戦的なスケジュールの設定(ABP: Aggressive But Possible)
各部門から上がってきた計画を集約した②の段階では、それぞれが納期を確実に守るためのバッファを含んでいます。もちろんバッファは必要ですが、誰もが多めにバッファを見込みがちで、本当は最短なら半分の日程で終えられるかもしれません(上図の中段)。
そこで計画段階では、日程の余裕を排除し、五分五分で完了できそうな期間で作業に挑戦してもらうようにします。図の例では、②の段階では計36日を見込んでいますが(上図の上段)、この半分の18日間での完了を目指すということです。その際、メンバーのマルチタスクを徹底して排除できるように人材リソースを配置して、五分五分の成功確率で挑戦できる環境を整えることで、最大効率を追求していきます。
④バッファを全行程で共有して管理する(Buffer Management)
とはいえ不測の事態は常に起こりますから、バッファをゼロにすることはできません。ただ部門ごとに織り込むとバッファが多めになってしまいます。そこで部門ごとではなく、プロジェクト全体でバッファを共有します(上図の下段)。これを「安全バッファ」といいます(図の例では、18日×50%=9日分の安全バッファを全体で共有)。
その上で、部門ごとに朝会を開き、下図のような質問をメンバーに投げかけて進行状況を毎日丁寧に確認します。その結果を全部門で共有し、クリティカルパスを中心に遅れがないか、安全バッファをどれぐらい浸食しているか、チェックしていきます。
仮にどこかの部門で遅れが起こっても、9日分の安全バッファの範囲であれば大きな問題はありません。遅れの出た部門にペナルティーを与えたりせず、状況や遅れの事情を正直に報告してもらうようにすれば、早期に対策を打つことができ、全体の遅れを最小限に防ぐことができます。
オムロンヘルスケアでは、CCPMを取り入れたことで、新製品開発のリードタイムを約3カ月も無理なく短縮することができました。その結果、新製品を打ち出す頻度も増え、2013年度の新製品開発のテーマ数は、2011年度実績比で200%増となりました。
無理なく開発体制の効率化を図った結果、開発部門の担当者も時間と心の余裕ができ、魅力的な新製品が次々と生まれるようになりました。これは大きな成果でした。
以上が、私が実際にオムロンヘルスケアで取り組んできたTOCの考え方と実践のポイントです。第1回でもお話ししたように、TOCは単なる理想論ではなく、開発・営業・製造などの現場に実践的に取り入れやすいことが特徴です。ぜひ多くの方々に知っていただき、製品開発の効率化で悩むメーカーやIT関連企業で活用していただきたいと思います。
<連載ラインアップ>
■第1回 元オムロンCFO日戸興史氏が解説、世界的ベストセラー『ザ・ゴール』のTOCがなぜ経営改革に効いたのか
■第2回 元オムロンCFO日戸興史氏が語る、TOC(制約理論)でリードタイムを5分の1に短縮できた理由
■第3回 過剰在庫の真因は需要予測の精度にあらず、元オムロンCFO日戸興史氏が解説するサプライチェーン改革の重要メソッド
■第4回 「開発期間」と「品質」をどう両立させる? 元オムロンCFO日戸興史氏が解説する全体最適のマネジメント手法「CCPM」(本稿)
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