4年連続で「DX銘柄」に選定されるなど、デジタル先進企業としての地位を確立しつつある旭化成。同社はいかにしてDX化に向けた全社改革に取り組んできたのか。
本連載では『人・データ・組織風土で奏でる 旭化成のデジタル共創戦略』(旭化成株式会社デジタル共創本部編/中央経済グループパブリッシング)から、内容の一部を抜粋・再編集。同社のDX史をひも解きながら、組織形成や人材育成など、企業に求められるDX戦略の在り方を探る。
第4回は、DX推進に必要なキャリア人材確保の必要性について、同社が行ってきたデジタル強化の「本気度」を伝える採用活動の事例を紹介する。
<連載ラインアップ>
■第1回 旭化成が全社一丸のDXビジョン策定のため「とりあえず合宿」を行った理由とは?
■第2回 旭化成が「DXブーム」の始まりとともに開始していた「CORE Project」とは?
■第3回 旭化成グループ横断のDX組織「デジタル共創本部」はいかにして生まれたか
■第4回 化学企業である旭化成はなぜ、DX人材に選ばれる組織となり得たのか(本稿)
■第5回 対象は全従業員、旭化成が進める「デジタル人材4万人化計画」の中身とは?
■第6回 旭化成の新たなDX拠点オフィス「CoCo-CAFE」がつくり出す「共創」と「集中」とは?
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⑴ 組織体制強化に伴う人材確保の必要性
デジタル活用によるDXビジョンの実現とオープンイノベーション、共創を進めるためには、旭化成グループの事業部門・事業会社との連携が不可欠です。デジタル共創本部設立当初の人員体制だけでは、これらの目的を達成するのは難しい状況でした。
既存の従業員のスキルアップや成長を促すことも必要ですが、多様な経験を持った旭化成グループでは希少な人材を新たに採用すること(キャリア採用等)が急務でした。特にデジタルノーマル期を見据えて、事業部門のDX人材を強化していくためには、デジタル共創本部から事業部門に異動し、事業部門の中で指導・教育に従事できるような人材を早急に増やす必要がありました。
DXをD(デジタル)とX(トランスフォーメーション)に分けて考えると、Dのスキルを持つ人材だけでなく、Xの能力を持つ人材をより一層多く増やす必要があります。現場で求められているのは、新たなビジネスを顧客とともにデザインできる人材(ビジネス・イノベーション人材)や、デジタル技術に理解がありながら変革をアジャイルに推進できる人材(デジタル変革推進人材)です(下図)。
デジタル共創本部を設立した時点で、旭化成は化学企業として、日本では一定の知名度を有していましたが、デジタルという観点でIT企業等と比べるとその知名度は十分とはいえませんでした。そのため、上記のスキル・能力を持つデジタル分野の転職希望者が、それらのIT企業等に優先して旭化成を選ぶ保証はありませんでした。
そこで、旭化成が目指すデジタルノーマル期のビジョン、全従業員教育のオープンバッジ制度、これまで取り組んできた多様なDXテーマなど、旭化成の本気度を示す数多くの情報を積極的に発信してきました。また、転職希望者のこれまでの経験や実績、意気込みを重視し、これまでの旭化成のキャリア採用では選考対象から外れていた多様なバックグラウンドを持つ人材にまで範囲を広げました。
さらに、キャリア採用Webサイトとは別に「DXエンジニアキャリア採用特設サイト」を立ち上げています。このサイトでは、キャリア入社した社員のインタビューやデジタル共創本部のミッションなどの情報を提供し、転職希望者に旭化成の魅力を伝える工夫を凝らしています。DXに特化したキャリア採用Webサイトの構築は、当時の事業会社の中では珍しい取組みだったのではないかと考えています。
後に入社した社員からは「Webサイトのインタビュー記事などから旭化成の雰囲気、旭化成のDXに対する本気度が伝わった」と高い評価を受けました。現在もこのサイトは、最新の旭化成のDX状況が伝わるように、定期的に内容を更新しています。