需要実態に即応することで在庫を減らす「MTA」

 そこで導入することを決めたのが「MTA(需要連動後補充生産)」でした。MTAは、前述の「市場の制約」に対応するサプライチェーン改革の考え方であり、世界的ベストセラー『ザ・ゴール』の著者エリヤフ・ゴールドラット博士が提唱した「TOC」を代表する理論でもあります。

 その骨子を一言でいえば、在庫を極限まで抑えた上で、各店舗で実際に売れた品目と数をリアルタイムに近い形で把握し、その分を迅速に生産して供給・補充するというものです。

 欠品を防ぐために最小限の在庫は必要ですが、生産部門に詳しく確認してみたところ、「部品さえあれば1台20分で家庭用血圧計を作れる」と言うのです。そこで部品メーカーの協力を得て、生産に時間のかかる部品について適切な数の在庫を確保できるようにしました。おかげで供給のリードタイムの大幅な短縮が可能になり、その結果、過剰な在庫を抱えることもなくなりました。

 実際の運用には、「DBM(Dynamic Buffer Management)」と呼ばれる在庫管理手法を用いました。品目ごとに許容できる在庫の量を決め、在庫に余裕があれば「緑」、適正水準であれば「黄色」、欠品の危険が迫っていれば「赤」と色分けして、地域倉庫の状況が一目で分かるようにしました。

 そして、在庫が減ったものはその分だけ作って補充していきます。赤の状態が多い、つまり在庫が減りがちなものは売れ筋ですから、在庫量を少し増やします。逆に緑色の状態が多い品目は現状では売れていない品目ですから、作らずに在庫が適正になるのを待ちます。

 この方法を採用した結果、約3カ月だったリードタイムをわずか18日までに短縮することができました(第2回参照)。ものの作り方は変えず、生産供給の流れを良くすることで長年の過剰在庫の問題を解消でき、収益性を大幅アップすることに成功しました。おかげで新製品開発に投じるリソースにも余裕が出てきたのです。