歴史家・作家 加来耕三氏歴史家・作家 加来耕三氏

 不確実性が高い“乱世”の時代、企業を率いるリーダーが歴史の考察を通じて得られる学びは大きい。歴史上のリーダーたちはいかにして不利な状況を克服し、勝利を収めてきたのか。そして私たちは、その歴史から何を学ぶべきなのか──。歴史家・作家の加来耕三氏によると、乱世の時代には「戦略」よりも「戦術」が重要になるという。2024年2月に書籍『リーダーは「戦略」よりも「戦術」を鍛えなさい』を出版した同氏に、令和のリーダーが戦術を学ぶことの意義、戦術を用いて勝率を高めるためのポイントについて聞いた。

「戦術」への理解なくして「戦略」は語れない

加来 耕三/歴史家・作家

1958年大阪市生まれ。奈良大学文学部史学科を卒業。学究生活を経て奈良大学文学部研究員。現在は大学・企業の講師をつとめながら、歴史家・作家として著作活動をおこなっている。監修を務める『コミック版日本の歴史』(ポプラ社)は300万部を超えるベストセラー。テレビ・ラジオ出演多数。近著に『徳川家康の勉強法』(プレジデント社)、『教養としての歴史学入門』(ビジネス社)など。

――著書『リーダーは「戦略」よりも「戦術」を鍛えなさい』で、日本のリーダーは「戦略」と比べて「戦術」を軽視する傾向があるとして警鐘を鳴らしています。日本人は戦略と戦術をどのように捉えるべきなのでしょうか。

加来耕三氏(以下敬称略) どんな世界でもそうですが、小さな「戦術」での勝利の積み重ねの実戦経験があって初めて、大きな「戦略」を描くことができます。ですから、戦術の重要性を理解することなしに戦略を語ることはできません。

 ところが、日本の企業や組織でリーダーの立場にある人たちと話していると、戦略は重視するものの戦術を軽視する傾向を感じます。全体を構想する戦略を練ることがリーダーの仕事であり、そのための手段・方法である戦術を実行することは部下の仕事だと思われているようです。

 しかしながら、歴史を振り返ってみると、いかに戦術が重要であるかが分かります。大きな仕事を成し遂げ、歴史上に名を残した人たちの足跡を見ていると、誰もが小さな戦術による勝利の積み重ねを通して、徐々に大きな仕事を任されるようになっています。そして、それが後世に残る歴史的偉業につながっているのです。

 不利な局面を一つ一つ戦術によって打開した先に、大きな目標である戦略が結実します。特に「乱世」と呼ばれる、生きるか死ぬかの瀬戸際にあるような時代においては、目の前の戦いを制し、生き抜くための戦術が重要になります。小を積み重ねなければ、大には至らないのです。

 この本では、歴史を動かしてきたリーダーたちが積み重ねてきたさまざまな戦術を振り返りながら、戦術の重要性、戦術を成功させるための大切なポイント、そして、状況が刻一刻と変わる激動の時代こそ、戦略以上に戦術の積み重ねが重要であることを述べています。