業務効率化やアイデア創出など、ビジネスでも多目的に活用されている生成AI。日常的な言葉による指示で利用できるため、利便性は極めて高い。とはいえ、その性能を十分に引き出すには「言葉の選択肢とその選び方」が重要だと、生成AI開発に従事する言語学者・佐野大樹氏は語る。本連載では、佐野氏が言語学の知見から生成AIとのコミュニケーション法を考察した『生成AIスキルとしての言語学――誰もが「AIと話す」時代におけるヒトとテクノロジーをつなぐ言葉の入門書』(佐野大樹著/かんき出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第4回は、「状況設定」(コンテクスト)がいかに生成AIの回答を左右するかを、実例を挙げながら確認する。
<連載ラインアップ>
■第1回 人工知能の歴史を塗り替えた生成AI、社会に与えるインパクトとは?
■第2回 「おはようございます」「おは!」「おはyoo」「GM」をなぜ使い分けるのか?
■第3回 「GSP分析」で導き出した、望ましい「プロンプト」の書き方とは?
■第4回 「あれ食べてないから、あそこ行こうか」で、なぜ話が通じてしまうのか?(本稿)
■第5回 「富士山の魅力を一文で」どんな条件を加えればAIは名作コピーを生成できるか
■第6回 カレーの隠し味のアイデアを、物語調でAIに生成させるとどうなるか?
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コンテクストとはそもそも何?
■コンテクストとは
プロンプトの構成要素には、指示/質問の説明、状況設定、様式の選択、例の提示、入力値といったものがあります。
本章ではこのうち、状況設定について詳しく見ていきます。特に、状況設定を生成AIに伝えることが、生成AIの知識やスキルを対話の目的に合わせてカスタマイズするうえで重要になるということを概説します。
状況設定は言語学でコンテクストとして扱われます。
生成AIに状況設定を伝えるための基礎として、まずは、言語学でコンテクストがどのように捉えられているかを見てみましょう。
その後、言語学でのコンテクストの考え方が、プロンプトに状況設定を書くうえで、どのように役立つかを見ていきます。
■背景としてのコンテクストと文脈としてのコンテクスト
コンテクストという表現を日本語に訳す場合、背景や状況と訳される場合と、文脈と訳される場合があります。
本章で言うコンテクストは、言葉が使用される社会的・文化的な背景や状況のこと、もしくは、「場」のことを指します。
例えば、「しばらくあれ食べてないから、久しぶりにあそこ行こうか」「あれね、食べたい」という会話をしているとしましょう。
この会話だけでは、我々には、「あれ」や「あそこ」が何を指しているのかわかりません。
しかし、仮に、会話をしている人たちは、定期的にガトーショコラが美味しいカフェに通っているという背景を共有していれば、ただ「あれ」「あそこ」だけでも、解釈できます。
このような言外の状況や背景のことをコンテクストと言います。
コンテクストが言外の状況や背景を指すのに対して、文脈は会話内や文章内の言葉の関係を示し、コンテクストと区別してコ-テクスト(co-text)と言います。コ-テクストを考える際には、特定の句や文がどのような言語的環境(前後の文や段落など)で使用されているかが焦点となります。