業務効率化やアイデア創出など、ビジネスでも多目的に活用されている生成AI。日常的な言葉による指示で利用できるため、利便性は極めて高い。とはいえ、その性能を十分に引き出すには「言葉の選択肢とその選び方」が重要だと、生成AI開発に従事する言語学者・佐野大樹氏は語る。本連載では、佐野氏が言語学の知見から生成AIとのコミュニケーション法を考察した『生成AIスキルとしての言語学――誰もが「AIと話す」時代におけるヒトとテクノロジーをつなぐ言葉の入門書』(佐野大樹著/かんき出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第2回は、生成AIの性能を引き出す上で言語理論がなぜ有効なのかを、例文と共に解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 人工知能の歴史を塗り替えた生成AI、社会に与えるインパクトとは?
■第2回 「おはようございます」「おは!」「おはyoo」「GM」をなぜ使い分けるのか?(本稿)
第3回 「GSP分析」で導き出した、望ましい「プロンプト」の書き方とは?
第4回 「あれ食べてないから、あそこ行こうか」で、なぜ話が通じてしまうのか?
第5回 「富士山の魅力を一文で」どんな条件を加えればAIは名作コピーを生成できるか
第6回 カレーの隠し味のアイデアを、物語調でAIに生成させるとどうなるか?

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選択肢として言語を考える

生成AIスキルとしての言語学』(かんき出版)

■生成AIとの相性がいい言語理論なんてあるの?

 生成AIと人との対話について考える場合、例えば、生成AIが文法的に正しい文を生成できるかどうかを評価するには、言葉の規則性に着目する構造主義的な立場の言語学が適していると考えられます。

 一方で、生成AIの能力や知識をより引き出すような言葉の使い方はどういったものかを探求する場合、ある目的を達成するために必要な言葉の選択に着目する機能主義的な立場からアプローチするのがよいと考えられます。

 本書の読者は、仕事や教育などで、生成AIを使用するために、どのような言葉の選択がいいかを知りたいという方が多いでしょうから、機能主義的な立場をとる言語学の一つ、選択体系機能言語学(Systemic Functional Linguistics、以下SFL)の知見を使って、生成AIとの対話スキルについて見ていきます。

 SFLは、M・A・K・ハリデーによって1960年代に提唱され、主にイギリスやオーストラリアを中心に発展してきた理論です。この言語理論の特徴は、言語を可能性、もしくは、選択肢の体系として捉えるということにあります。

 ここで言う「選択肢の体系」とはどういうことでしょうか。

 朝の挨拶をする場面を例に考えてみましょう。

 挨拶をするときに、例えば次のような言葉の選択肢が考えられます。

①おはようございます

②おはよう

③おは!

④おはyoo

⑤GM(Good Morning)

⑥おはよーさん

 同じ目的に対して、それを表すことができる表現が複数あることが我々の言葉にはよくあります。

 なぜ、選択肢が一つでないことが多いのでしょうか。