全日本空輸(以下、ANA)は経理部門の人材不足という課題をデジタル化で解決しようとしている。航空会社の経理業務は高い専門性が求められるが、必要なスキルを備えた人材の育成や採用は容易ではない。そこでANAは電子請求システムを導入し、少人数で業務を遂行できる体制を構築した。どんな効果が出ているのか。同社経理部事業所サポートチームマネジャーの近藤成史氏に話を聞いた。
経理スペジャリストが少ない現状
──ANAはグループ全体で経理業務のデジタル化を進めています。なぜデジタル化が必要だと判断したのでしょうか。
近藤成史氏(以下敬称略) 人手不足とそれに起因する特定の人材への業務負担の増加が理由です。航空会社の経理業務には、非常に高い専門性が求められます。航空機や整備品は固定資産として計上しなければなりませんし、関連会社への請求書発行や各部署からの請求書処理依頼も膨大な件数に上ることから、複雑な処理が必要なのです。
つまり、一般的な簿記知識だけでなく、航空業界とANAの事情に精通した経理スキルを持つ人間でないと、業務をスムーズに完了することができません。一昔前までは、入社後、経理畑を一貫して歩む人材を会社も育てていましたが、現在は短いスパンでの人事異動が当たり前になっています。一定のスキルを持った人間が定着しづらく、勤続年数の長い人間に負担が偏ってしまうという事情があります。
また、昨今はどの企業も人手不足で、経理に精通した人材を外部から採用することも容易ではありません。そこで、2020年度から電子請求システムを導入し、業務負担を軽減しようとしているのです。
──具体的に、どのような業務においてデジタル化が可能になったのでしょうか。
近藤 債権管理業務のうち、請求書発行に関わる業務(毎月約2000件)をデジタルで完結するようにしました。
それ以前は、請求書発行依頼を確認し、データ入力後に印刷して請求書を作成、その後郵送作業に至るまで手作業で実施していたのです。
しかし、現在はこれらの業務全てをパソコン上で完結できるようになりました。
結果として、1カ月あたり80時間かかっていた債権伝票入力業務を27時間で完了できるようになりました。印刷代や郵送費などの費用を月間15万円程度削減できるようになり、コスト削減にも成功したのです。
時間・金銭的コストの削減だけではありません。事務作業のミスが減り、コア業務に注力できるようになったことも、電子請求ツール導入の大きなメリットとなっています。